先日、「飛ばし読み」と「スポット読み」の話をしたが、今日は「散らし読み」の話でもしようか。
「散らし読み」、つまり一度に何冊も互いに何の脈絡もない本を読んでいくこと。ちなみに、今私のサイドテーブル(といっても古い障子の桟と板で作ったもの、それでも一丁前に四本の脚にそれぞれ小さな車がついていて移動可能)の上に、もうかなり前から読んでいる李恢成の『見果てぬ夢』、時おり飛ばし読みをする美子の『エリオット詩集』(上田保・鍵谷幸信訳、思潮社、1965年)、ウナムーノが影響を受けたらしいセナンクール『オーベルマン』(市原豊太訳、岩波文庫、1986年3刷)、スペイン語のモニケ・アロンソの『亡命詩人アントニオ・マチャード』(1985年)、そしてこれらに昨夜から安部公房の『終りし道の標べに』が加わった。
互いに何の脈絡もないが、しかし読む方の私にはそれなりの脈絡…いやいや、こちらにもあまり脈絡はないか。確かに私の頭の中はしっちゃかめっちゃかではあるが、でも人格がぶっ壊れるほどの混乱は今のところ無い。要するに一冊の本を続けて読むことに疲れるからで、「散らし読み」と言ったが、つまみ食いのようなものだから「摘まみ読み」と言い換えてもいい。
さて李恢成の小説だが、著者は「あとがき」でこう書いている。「なお、この小説を書く過程で、韓国関係のさまざまな資料に目を通し想を得たが、なかんずく『徐君兄弟を救うために・合本』(徐君兄弟を救う会)から多くの示唆を得た」。その徐ご兄弟の弟の京植さんとは、はからずもこの震災後に知り合うことになったのだが、実は何冊か氏のお兄さんたちの著書やら記録やらを持ってはいるのだが、まだほとんど読んでいなかった。
そんなこともあってこの機会に在日の人たちが抱える問題に少しでも近づきたいと、李恢成の長編小説を読み始めたのだが、単行本で6巻、文庫本で5巻という大長編、ゴールのことは考えないでちびちび読んでいくしかない。二種類も同じ本を揃えざるを得なかったのは、単行本と文庫本では収録内容が微妙にずれていたからだが、それを置くだけのスペースが無い書庫なので、単行本の方は西内君にもらってもらった(日本語になってる?)。
分断された祖国、統一への悲願、それが遠い国で起こっていることではなく、直ぐ隣りの国、しかも過去に日本が深く関わり、その結果としていまなお日本の中に多くの在日の人たちがいるとなれば、これはもう他人事ではなく、ある意味で日本人自身の問題でもあるわけだ。もちろんどちらかの肩を持てばいいという問題でもないし、軽はずみに口を出すべき問題でもないが、しかし繰り返すが、本当はもっと親身に(?)なって考え、見守ってこなければならなかった問題のはずだ。遅まきながらようやく気がついた次第。
昨日から「散らし読み」に加えられた安部公房の小説も、李恢成の作品とはもちろん違った位相からではあるが、もっと読まれていい小説である。安部公房は私より15歳年上だから、当然その旧満州体験はずいぶん違っていて、そのあたりのことを知りたいと思いながら今日まで読まずにきた。これは安部公房の処女作とも言っていい昭和23年発表の作品で、後の前衛的な作風が随所に見られ、読み始めた限りではなかなかの力作である。
さてこんな風に、内容そのものに踏み込まずにただ作品の外っ面だけ羅列するのはいかにも能のない話なので今日はこの辺で止めよう。結果として、己の知力理解力の衰えを白状しただけだが、しかしボヤイてみても始まらない。残された日々、このお粗末な脳を騙しだまし大事に使っていくしかあるまい。
ただ良くしたもので(?)、一時期より毎日なにがしかのスペイン語を読むようになり、少しずつ読解力が戻ってきている。先日も闘牛士を主人公とする『血と砂』(岩波文庫に翻訳がある)で有名なブラスコ・イバニェスの『黙示録の四騎士』なんていう小説をアマゾン経由で海外から取り寄せ、上に紹介した本たちの側に置いている。録画状態は悪いが、グレン・フォード主演のアメリカ映画(1961年)のDVDもあるので、そのうちゆっくり読んでみるつもりだ。ときどき先々のことを考えて儚(はかな)い気持ちになることはあるが、こうして本たちに鼓舞されて空元気を出してます、はい。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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