世間では今日から五日ほどの連休が始まったのであろうか。でも私たち夫婦にとっては、毎日が連休みたいなものだからさして胸躍るというわけでもない。ところが午後になってスペインから大きな箱が二つ届いた。サトリ出版のアルフォンソさんが送ってくれた待望の書籍群である。(楽屋話になるが、印税の代わりに、と当方が所望したものである)
なんと合計36冊! これからゆっくり貞房文庫に登録しながら皆さんにもご紹介していくつもりだが、今日はとりあえず小型本から。小型本と言っても日本人なら懐かしい千代紙風をあしらった素敵な表紙の数々です。これは俳句シリーズで、訳者・解説者はすべてフェルナンド・ロドリゲスさん。私のイエズス会時代の少し先輩で、彼も還俗してセビーリャ大学の教授をしながら、長らく日本文学の翻訳をしてきました。1996年には、故・牛島信明さんやノーベル文学賞受賞のカミロ・ホセ・セラさんなどと不肖私も審査員を勤めた野間翻訳文学賞を、安部公房『砂の女』翻訳などの業績を評価されて受賞しました。
今日届いたのは
第一巻 松尾芭蕉『山路来て』
第三巻 正岡子規『胡蝶を頼む』
第四巻 夏目漱石『空の色』
第五巻 芥川竜之介『砂に書く』
第六巻 小林一茶『おらが春』
の五冊(第二巻の夏目漱石『蜻蛉の夢』は忘れたか)で、それぞれ70句が紹介されています。
(さらに第七巻 与謝蕪村 第八巻 千代女 が予告されています。)
表題になっているのは、それぞれが名句の一部からとったものです。
山路来て 何やらゆかし 菫草
朝顔の 今や咲くらん 空の色
道連れは 胡蝶を頼む 旅路かな
火鉢かな 女名前も 灰に書く
おらが春 中位なり 目出度さも
私が知っているのは「山路来て」と「おらが春」だけ。だからスペイン語訳を読みながら、俳句の勉強を楽しむつもりだが、それにしてもスペインの、しかも地方都市ヒホンでマリアンと二人だけてこれまで見事な日本文学紹介の出版を続けてきたアルフォンソもすごい人だ。紹介するにつれておいおいこの出版社が手がけてきた仕事の全貌がお分かりいただけると思うが、これほど本格的に、しかも日本文化・文学に絞って出版活動を続けているのは、おそらく世界随一だろう。おりしもヨーロッパ、特にスペインでは日本ブームである。もちろん食べ物やアニメ・マンガなどが大半だが、このサトリのように日本文化の基層をしっかり捉えた活動は、たとえブームが去ったとしてもスペイン文化との真の相互影響を持続させていくだろう。
もしかしてスペイン語訳がどうなっているかを知りたい方のため、上の句をすべてスペイン語でご紹介しておこう。
Por sendas de montaña encontré algo sublime, la silvestre violeta.
La ipomea,ya a punto de florecer, lo avisan tintes del cielo.
Ruego a la mariposa me brinde compañía en esta caminata.
En la ceniza escribo un nombre de mujer al calor del brasero.
Sea bienvenida mi nueva primavera, más bien gozosa.