旅のアルバム(十勝・坂下)
白い雲が流れ
高原に涼風が立つ
私の三人の従弟たちは
三叉路にまぶしくポーズをとる
あの頃は叔母さんも
病がちではあったが
まだ子供たちと一緒で
ふくよかな微笑を……
あれは北国の夏
都を遠くはなれた
透き通るような紺碧の空の
その光が眼にまぶしい
すべてはあの夏空に
すいこまれ、はかなく
あゝ、風の音がよみがえる
(一九六五・八・七)
せみ
あれはみんみんぜみ
つくつくぼうし
秋風が立ちはじめた
むさし野の森に
白い雲は光をはらみ
青い空は海をうつす
麦わら帽が三つ
ほこりっぽい広場をよぎる
あれはみんみんぜみ
行く夏を惜しむ
あれはつくつくぼうし
明日がないと泣く
(一九六五・八・七)
夕陽
むさし野の森と林と
家と電柱を
黒く沈めて、今
赤い太陽が落ちる
粛条とした風が
まといついて 又
夕陽の中に散った
屋上はルビー色
世の中にまだこんなにも
美しいものがあったのかと
胸のときめきをおさえて
沈む太陽に背を向けた
※ いまさらコメントするまでもない詩もどきですが、私自身にとってはなぜか捨てがたく、十数年前他のかなりの数の詩(もどき)とともにワープロ印字の私家本一冊にまとめました。一九六五年、東京西郊のI会神学院時代の作です。以後詩作からは完全に遠ざかったままです。
「旅のアルバム」は、実際の小さな写真を見ながらのものです。その頃(写真が撮られた頃)、確かS叔父は帯広の病院に、幼い三人の子供たちを抱えながら教員生活を続けていたC叔母自身、そのころ既に足がむくみ始めており、数年後に叔父よりも先に帰天しました。本当に素敵な女性でした。