猫にしろ犬にしろ、いやすべての動物の子がそうだが、どうしてあんなに可愛いんだろう。それはその可愛さで外敵から身を護るため、なんてことを言った人がいるが、それはちょっと眉唾ものだ。でも誰かが、地球上いたるところ、まるでタンポポの花が咲くように、ポッポ、ポッポと可愛い動物の赤ちゃんたちが笑うように仕組んだとしたら、それこそが神である、と言われれば、神さまの存在はごくごく自然に信じられる気がするが。
猫や犬のように人間に近いところに住んでいる動物については、確かに先ほどの仮説は当たっているかも知れない。つまりどんなに心の冷たい人でも(生まれつき冷たい心というものはないわけでして)、可愛い犬や猫の子を見れば、その瞬間(その瞬間だけかも知れませんが)心がぐにゃりと軟らかくなること間違いなしだからだ。それに比べると、人の子は、「あらまあ、なんて可愛いい赤ちゃん!」なんて言うが、たいていはお義理か、あるいは赤ちゃんは可愛いもんだ、という先入観からああ言うのだろう。
昔、コインロッカー・ベービーという言葉というか事件があったが、今では捨て子など場所を選ばず頻繁に起こるので、ことさら場所の名前など付けないのか。不遜な仮定だが、もしも人の子が可愛くなるのがもう少し早かったら(どうしても二、三ヶ月かかってしまう)、捨て子が少しは減るかも知れない。
ともあれ動物や人間の子供はなぜ可愛いのか、その原因は分からないとしても、その理由はなんとなく分かる気がする。割合あるいはプロポーションの問題である。昔、少年雑誌を飾った挿絵画家に河目悌二という人がいた。彼の描く子供は本当に可愛いかった。目は顔の真ん中あたり、そして鼻はあるかないか分からないくらいのがぽっちり。目鼻立ちもそうだが、からだ全体もバランスを欠いている。八頭身とはほど遠く、三頭身か四頭身。それが可愛さの理由だった。
さてキリスト降誕祭が終わった。たとえ商業主義に毒されていようがいまいがクリスマスにこれだけ人気があるのは、それが赤ちゃんの祭りだからである。だれが企んだかは分からないが、この点では仏教やイスラム教などよりイメージ戦略において一歩先んじている。だがエル・ニーニョ(幼子イエス)が世界平和の潮流を作るには今ひとつ何かがかけている。幼子は赤子(せきし)、だから必要なのは赤心?まさか悪い冗談はよし子さん。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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