なんて底意地の悪い!

おいおいそこ行く背広姿のお役人よ、お前らだろ、なにかと言えば朝鮮学校の子供たちに石ぶつけること陰で煽ってるのは。なに言いがかりだと。もちろんいいがかりよ。でもな、北朝鮮情勢を考慮して民族学校卒の国立大学入学資格を認めない方向で検討しているだと!馬鹿言っちゃいけないぜ。それ、北朝鮮政府のやっていることの責任をなんの罪もない子供たちにかぶせることで、子供たちに石ぶつけることとどこが違う!石ならまだ避けようがあるぜ。けど、大事な進路をやんわり遮るなんてこたぁ、これやっちゃいけねえ。
 おいおい昼飯を食いに暖簾をくぐる若いもん、あっ兄ちゃん姉ちゃんも分科省のお役人、こりゃまった失礼、文部科学省のエリートさんだって?寿司食いねえ、なんて言わないよ。自分たちこそ日本の教育を支えてるなんてぶざけたこと言ってる奴に寿司なんてだれが勧めるか(そんな金もねーし)。
 自慢じゃないが、俺らは戦後最初の小学一年生よ。もっとも俺らは満州引揚げで、ひと月遅れの一年生だったけどな。同姓の担任の先生、学年途中で辞めてった、教師の給料じゃ食っていけねえとさ。でもいい先生がいたなあ。チョーク投げの名手、パンツをひと月も換えない無精ひげの若い先生。あのころはご大層なカリキュラムなんて無かったとちゃうか。それでもみんな精一杯生きてたぜ。女の子は頭に虱をわんさと飼い、男の子は白雲たなびかせて(シラクモって皮膚病だぜ)、顔には田虫を養殖して。でもすかっと青空が開けて、学校面白かったぜ。
 兄ちゃんよ、大学・学科の新設・増設をぺこぺこ陳情する大学のお偉いさんに、机に両足投げ出してふんぞり返って応対するうち、だんだん錯覚するようになったのとちゃうか。俺たちこそこの国の教育界をリードしてると。
 ところでこのごろ日教組の声も聞こえんし姿も見えなくなっとるけど、元気にしてるん? 右翼からすれば日本の教育をダメにしたのは日教組、左翼からすれば文部省、でも俺らから見れば、どちらもその権威主義、事大主義でほんにまあー似た者兄弟、一卵双生児や
 悪いこと言わん、入学資格なんて誰にも無条件に認めてやんな。どうせ試験やるんだろ。それでなくても少子化で机が余ってるのよ。国立大学の学長さんたちよ(おいらと一字違いの総長さんもいたっけ)、馬鹿げた文科省の独走に抗議の声上げんかー
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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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