予定どおり雨の中、大熊まで行く。今日のウメさん、かなり調子がいいのか、しきりにしゃべろうとする。ケアのどなたかが(それにしても彼女たちの正式の呼び名は何て言えばいいのだろう?)美子のことを美人だと言っていたとさも可笑しそうに話したあと、美子がトイレに立ったすきに、別のケアさんが、美子とウメさんはあまり似ていず、むしろパパ(私のこと)とウメさんが似ていると言ったと嬉しそうだ。もちろんろれつが回らないのだが、今日は一度聞き返せば何とか分かる。今日もここの看護婦さんたちが(本当は看護婦さんではないが)みな親切で嬉しい、と言う。じっさい私たち訪問客としても今まで嫌な思いをしたことなど一度もない。訪問のために片道車で五十分はちょっとしんどいが、しかしウメさんにとって本当にいい施設だった。これは一種の見合いみたいなもので、いい組み合わせかどうかはほとんど運である。施設にあずけている、ということに関してはいささか複雑な気持ちがあるが、こうして満足しているのをみるとありがたいなーと感謝の気持ちが湧いてくる。

アバター画像

佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
カテゴリー: モノディアロゴス パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください