本当はバッパさんも今日「君仙子展」を見る予定だったが、直前にリサイクル関係のグループから誘いがあってそちらの方に出かけていってしまった。これに限らず、土地の文学サークルの合評会には出るは、老人会の忘年会に参加するは、とにかく声がかかればほいほい出て行く。隠居などというものはあの人とは(あっすみませんバッパさんのことです)無縁らしい。その凄まじいまでの糞エネルギーにはほとほと感心する。
そんなこんなで、代わりに妻を連れて行くことにした。展示物を一渡り見たあと、私は二階の「島尾敏雄を読む会」に出て、妻はその間、下の図書館などで時間つぶしをすることになった。さてその会の今日のテーマは、島尾敏雄の『忘却の底から』の中の、母親に関する叙述をめぐってだった。もともとこのエッセイ集は、晶文社全集の月報に連載されたもので、島尾敏雄の一種の自伝になっている文章群だが、今回初めてきっちり読んだ。そして驚いた。彼のいわゆる小説作品に決して劣らない、というより私見ではそれよりはるかにと言ったら故人に悪いが、文学的にもボルテージの高い「作品」だと思った。
とりわけ母親の思い出を綴った部分は、大正から昭和初期を生きた、一人の地方出身の『女の一生』を見事に描いた作品である。そして懐かしい相馬の昔が生き生きと描かれていて感動させられる。次回まで全員が読んでくること、そしてこれをめぐって話し合うことになった。また参加者の一人の発案で、来春、島尾作品に描かれた場所を、自転車で、弁当持参で廻ってみようということが全員一致で決まった。今から楽しみである。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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