娘の嫁ぎ先の(なんとも古臭い表現だが)ご両親が鳩ヶ谷市の新居に移るというので(その後を娘夫婦が移り住むらしい)なにか引越し祝いをと考えていたが、娘が言うには、たとえば飾り物のようなものはあるという。それで、結局はいつものものを送ることにした。隣町の六号線沿いにある漬物屋さんの商品である。地方特産を見栄えのいい商品に仕立て上げた模範的な例ではないか、と思っている。豆腐を味噌漬にしたものが主力商品だが実に美味で、贈り物として重宝している。
店から出たとき、珍しく沿道に人込みができており、交通整理の警官も五,六人出ている。何事かと思って近づいてみると、おりしも田んぼ道を十騎程の騎馬武者が列を作って進んでくる。なるほど六号線を横断するつもりらしい。
青く波打つ稲田、青い空と白い雲をバックに、忽然と現れ出た武者たちにさして違和感がないのは、ここが野馬追の里だからか。でも彼らの雄姿を眺めているうち、不思議な感動が身体を突き抜けていく。なぜだろう。強いて理由を探せば、カツカツと地面を蹴る馬の存在である。そこにいたのが、単に陣羽織姿のサムライたち(おそらく彼らは宵乗りに参加する途中だったか)だけだったら、おそらくその感動はなかったかも知れない。人間たちよりもはるかに濃厚に野生を残している馬によって、人は一気に古(いにしえ)の世界に連れ戻される。人馬一体となって死と名誉を賭けた時代にタイムスリップするのかも知れない。
今年の野馬追は幸いに天候に恵まれただけでなく、週末とも重なって、明日の本祭は例年にない賑わいが予想される。
夕食は近くで友人が経営する蕎麦屋さんですませたあと、相馬盆歌や相馬流山が流れる街中を歩いてみた。沿道は神輿と、その後に続く踊りの列を待つ人たちで賑わっていた。いつもは寂びれた街も、今宵は祭りの不思議なエネルギーに包まれていた。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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