ヒロシです

夕方、新潟地方に震度6度強の地震があったらしい。我が家でも、地震大嫌いの妻がいち早くそれに反応した。でも幸いなことに、今のところそれほどの被害はなかったようだ。先日の台風被害のこともあるからそれはそれで嬉しいことだが、発生後すべてのテレビが予定のプログラムを変更して一斉に地震報道を始めた。それはそれで結構なのだが、幸いに被害が少ないにもかかわらず(もちろん怪我人は出たが、死者は今のところ一人か二人、脱線した新幹線にも幸い怪我人無し)、以後ずっとどの局も地震情報しか放送していない(もう少しで九時になる)。映画鑑賞をしていた小泉首相が総理官邸に戻ったことをさも重大事のように何度も何度も伝えている。
 もしかしてもっと被害が出た場合に備えて、一種の予行演習をしているのかもしれない。つまり災害時の報道規制である。考え過ぎと言われるかも知れないけれど、なんだか嫌―な感じがしないでもない。すべての報道機関が、そこに多少の差異はあっても、ほぼ同一の内容を一斉に流すことの不気味さである。念のため衛星テレビの2局〈国営の〉も見てみたが、二つとも地上波NHKと同一画面の地震情報である。
 ラジオ局の方はどうなっているのか、確かめるのも面倒くさいが、多分地震一色なんだろう。いや、必要不可欠の情報を敏速かつ正確に流してもらうことに異を唱えるつもりはない。でもそれにも限度というものがあるのではないか。つまり事の大小、意味、重要性に応じた適切な報道である。必要以上の時間とスペースを使ってだらだらと報道していると、本当に緊急かつ重要なことが起こったときに、聞き逃したり見逃したりする恐れがある。狼少年症候群である。
 自信はないが、こんな報道の仕方は今度が初めてなのではなかろうか。なんだか昭和天皇の下血報道の時を思い出す。いや誤解しないでもらいたいが(それはちと無理か)、死者や怪我人を軽んじているわけではない。すべての人を一斉に、ある一定方向に向かせようとしている、いや少なくともそうと思わざるを得ないことが不快であり、そして恐ろしいのである。依怙地に、たとえば名画鑑賞を続ける局が一局ぐらいあってもいいではないか。
 ついでだが、胃腸薬のコマーシャルなどで、サラリーマンやOLの一団が一糸乱れぬ群舞を繰り広げる場面は大嫌いである。その反動か、最近大好きなお笑い芸人はヒロシです。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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