あのよー

 『風のガーデン』最終回を見た。平原綾香起用は決して失敗とは言えないだろう。ただ私としては少し「余分」であった。だから最後を彼女とその歌で締めたことに対しては、倉本さん、そこまでサービスする必要ねえんでねえの、と言いたい。でも『北の国から』でも、倉本氏のサービス精神、悪く言えば通俗性は随所に見られ、そしてそれが多くのファンを獲得する要因にもなっているので、まっ仕方ないか。
 最終回に中井貴一演じる主人公がどのように扱われるか、それがポイントだったが、それに関しては成功したと思う。つまり当然のことだが、臨終の場を大袈裟な愁嘆場にしなかったこと。まもなく死ぬというのに、娘に向かって、「天国で大天使ガブリエルに会ったら、何て言うか」という謎掛けをして、「あのよー」などとなかなか洒落た答えをしているところなど感心した。親父ギャグもここまで来るとご立派、私も死ぬとき、冗談を言いながら死にたいものだ。
 ともかく「カンパニュラの恋」の顛末などといういささか過剰なサービスを除けば、心配していた(?)最終回、無難な終わり方をした。特に主人公が不在(死)であることによって、かえって存在感を際立たせる手法は見事である。たとえば死の瞬間、遠く離れたところ(旭川)にいる息子に「風」の形をとって現れるところ、そして新しく巡ってきた翌年の春、主人公が植えた種が一面に花開いた最後など、倉本聡のドラマ作りのうまさが目立つ。
 緒方拳、中井貴一の好演は予想通りだったが、娘役の黒木メイサ、息子役の神木隆之助も良かった。特に神木は知的障害者という難しい役を嫌味なく実に繊細に演じた。他に伊藤蘭も良かったが、石田えりが実にいい味を出していた。
 その最終回が放映された昨夜は、予定通りスペイン語教室の親睦会だった。たまたま私たち夫婦の前に坐ったのは、いつも親しくお付き合い願っている詩人■氏夫人、というより、スペイン語教室側からすれば国際交流協会の■さんだったが、実は彼女、『風のガーデン』のプロデューサー■のお母様なのだ。この実にいい作品のプロデューサーが親しい友人の息子さんなので、私も鼻が高い。
 以上のことと直接の関係はないが、この日は、34歳の若さで旧満州の僻地熱河で死んだ父の命日でもあった。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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