九月七日(月)晴れ
排便の方は入院前の状態に戻ってはいないけれど、しかし考えてみればこれはいわゆるリハビリの問題ではなく、認知症の進行に関するトラブルと考えるべきなのであろう。今朝の回診の際、I医師に聞いたところによると、術後の回復はすべて順調、つまり骨も充分に固まっており、よほどの外圧を加えない限り問題はないそうである。あとは落ちた筋力を回復させ、歩行などに耐える体力をつけることらしい。
実は午前中一回、そして午後も一回、階段の昇り降りを練習したのである。午後などは三階から一階まで階段を降り、すこし長い廊下をリハビリセンターまで歩いてみたのだが、どこかが痛み出すことも、息切れすることもなく部屋に戻ってきた。
ということは、機能的にはすでに回復しており、あとは栄養をつけ筋力をつけることだが、これは自宅で充分できることである。そして今いちばん問題になってきたのは、病室で長い時間ただ天井を見ていることで、認知症の進行自体が進んでしまうことであろう。つまり退院して一日も早く以前の生活に戻った方が、脳のためにもいいのではないかということである。テレビや音楽を見たり聞いたり、孫の相手をしたり、車に乗って買い物やばっぱさん訪問をしたりすることの方がいい、ということだ。退院がどういう手続きで決まるのかどうか、その仕組みが分からないが、どちらにしても今週いっぱいが目途ではないか。さてどう働きかけていったらいいのか。
午後の帰宅時、東京から帰省していたOご夫妻が訪ねてこられた。奥様は初めてのご来駕である。久しぶりに本のことや仕事のことが話せて大いに気分転換になった。前回いっしょに来られた一人娘さんは、京都の看護学校で無事学んでおられるという。大変な看護師の仕事を自分から選んだのは偉いな、と思ったが、あとから思い出したのは、たしか奥さんも元看護師だったのでは、ということだ。それならなおさら偉いことだ、と思う。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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