本当は井上ひさしさんのご母堂マスさんについて書こうと思っていたのだが、今日の午後、アマゾンに注文していた小川国夫さんの遺作『弱い神』が届いたので、それについて書くことにする。といっても、まだ初めの部分をちょっと読んだだけなので、今の時点で考えていることを、思いついたまま書いておこう。そして実際に読み終わったときに、その最初の印象がどう修正されたか、あるいは修正されなかったか、を改めて書くつもりである。
それにしてもなんというボリュームであろう。A5判で580ページの大冊である。とうぜん値段も張る(税込み3,990円)。しかも今回は新本として購入した。装丁者の司修さんには申し訳ないがカバーの中は真っ白なので、感じのいい高級風呂敷の端切れで全体を被った。素材は麻、そして柄は黒と緑と臙脂、そして麻本来の色が地層のように重なっている。
いやそんなことはどうでもいい。実は小川さんにこんな大作が遺稿として残されていたことを、三日ほど前、いわきに住む姉が送ってくれた「日本経済新聞」の切り抜き(「小川国夫再発見」)で初めて知ったのだ。いやどこかでその存在を聞いたか読んだかしたのに、いつか忘れてしまったのかも知れない。
巻末の長谷川郁夫氏による解説によれば、「小川文学の源にある『聖書』の世界、静岡の大井川河口を舞台とする虚構、そして体験を反映した私小説という3つの流れが見事に融合している。現代小説のひとつの極限。全身の力を込めた作品であることは間違いない」そうだ。本当にそうか。
問題は小川氏自身が、ここに収録されている作品群、古くは1998年の「星月夜」から2007年の「「未完の少年像」まで散発的に文芸誌に発表された合計28編の作品を、このように『弱い神』という長編に仕上げるつもりで書き繋いだかどうか、である。長谷川氏の解説では「平成十九年の暮れまでに、作品の順序が特定され、入稿の手入れがひとまずの完成をみた。部分的な不調整、重複の箇所が残ったが、年が改まってゲラが届けられ、車椅子に凭れての修復作業が進められた」とある。
小川さんが亡くなられたのは平成20年4月だから3月に体調くずして入院する直前まで『弱い神』の推敲をしていたことになる。そのへんのところは、しかしよく分からない。長谷川氏と講談社の担当編集者の言葉を信じるしかない。
最後のページにある編集者「付記」はこうなっている。「本書出版に向け著者校正中に著者は逝去しました。そのため文章の重複、あるいは人名の不統一などが初校ゲラに残されておりました。本書では著者が残したままの矛盾はそのままにしてあります。ただし人名、地名など、明らかに統一をしなければならないところは一部統一させていただきました」。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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