もっと気入れんかーいっ!

中国の母親やきょうだい、そして他の親戚たちのために大連の妹宛てに一括して送った『原発禍を生きる』の中国語版がやっと届いたとの電話が頴美に入った。ところが本と一緒に送った「ふりかけ」の袋だけが抜かれていたらしい。日本の美味しい振りかけを味わわせたいと思った頴美にすればさぞかし悔しいことだろうに、それを聞いて私は思わず「可愛い!」なんてことを言ってしまった。船便だったので、船倉の荷物室にいた大きな父ねずみ(?)か、あるいは陸揚げされて一時配送を待つ物流センターで働く母ねずみ(?)が、腹を空かせた子ねずみたちのためについ失敬したのだろう、と想像したからだ。
 それから数時間後、同じ郵便物に関し今度は瞬間湯沸かし器が作動してしまった。沸騰までの経過は以下の通り。
 四時ごろだったか、便所に入って用(小の方です)をたしていたとき、窓外で明らかに荷物運搬車のスライド式ドアの開け閉めの音がした。もしかして家に来た宅急便か郵便局の車かも、と思って玄関から外に出てみた。赤い郵便局のライトバンが停まっていた。お向かいさんが外に出ていたので、たぶんそちらへの配達だろうと思い、しかし念のため郵便受けを覗いてみたが何も入っていない。同じく玄関先に出てきた頴美と「家ではなさそうだよ」などと話し合った。今から考えると、そのとき配達夫(古い言い方か?ならば配達員)は運転席で「ご不在連絡票」に記入することで頭がいっぱい、玄関が開いた音にも、中から人相の良くない男が出てきてあたりを睥睨したことにも気づかなかったのであろう。
 しかし部屋に戻っても、やはりあれは家に来た車ではないか、との不思議な直感が働き(あんたは偉い!)、もう一度玄関先に戻り郵便受けを覗いてみた。ビンゴ!案の定、「ご不在連絡票」が入っているでないの! それで不在票に貼り付けてあった配達担当者Kのケータイ番号にかけてみた。何度かけても応答無し。次に「24時間自動受け付け電話」にかける。色気のない、いや人間味のない女声自動音声の指図どおりのデータを入力したが、なんと配達は明日以降になるが日時を指定してください、ときた。ザケンジャナイ!とこのあたりから沸点めざして急上昇。ならば地元の郵便局だ。出てきた(生きた)女の人に事情を話し、ともかく今日中に配達しろ、と言うと、夜7時からの配達になりますが、とのこと。それでいいからともかく今日中に、とドスの聞いた声で厳命して電話を切った。
 その際、あなた方のまるでプロ意識のない、やる気のない、いい加減な仕事振りは国際的に知れ渡っている、このままでは黒猫ヤマトにやられっちまうよ、と捨て台詞を吐いた。
 国際的な不評とはちと大げさな言い方だが、しかし中国語、朝鮮語、スペイン語に翻訳された『原発禍を生きる』の中で悪役の一角を立派に演じているのは明らかに日本郵便? 日本郵政?、いや郵便局? いいやその違いさえ未だに覚える気はないが、ともかく彼らであり、現在朝鮮語訳をしてくださっているヒョン・ジニさんも、日本への留学生時代に郵便局で不愉快な目に遭われたらしく、あるときメールでこれから郵便局に行きます、と書いたら、折り返し「どうぞ不愉快な目に遭われませんように」との返事が届いた。

 ここで今日の出来事をまとめてみよう。

① 玄関先でインタホンを鳴らして返事がなかったとき、五官とりわけ目、耳に不自由な方でなければ、明らかにこの家のものと思われる車、家の中から聞こえる物音(愛が騒いでいた)、などをチェックすべきではなかろうか。
② 運転席に戻って慣れない(!)不在連絡票への記入にシャカリキになっていたとしよう。でもここで大きな疑問。先ほどのブザーを家人がもしや聞き逃したのではないか。不在ならうるさく鳴らしてもいいわけだから、ここで不在連絡票を投函する前に念のためもう一度鳴らしてみるというチエは湧かなかったのか?
③ 通じもしない配達員の電話番号に何の意味がある? 黒ネコさんなら必ず返事がある。運転中なら店の方に電話できるシステムができている。ところが郵便局の連絡票に大きな文字で指示されている問合せ先は、前述したように機械音声での、それも翌日以降の配達指定というシステム。これじゃ全く初めからその日は配達したくねえ、という明らかな逃げのシステム。

 …あまりに馬鹿らしいので、これ以上は続けないが、簡単に言えば、郵便局よ、あなた方の配達業務はまさに「ガキの使い」そのもの。「これ何々さんちへ届けなさい」というママの言いつけで出かけたはいいが、その家のベルをちょっと鳴らして、ありゃ留守だわ、と目も耳も硬く閉ざして一目散に帰ってくるガキでんなー日本郵便さんよ、違う? じゃ日本郵政さんよ、これも違う? じゃ郵便局さんよ。
 あんた方、仕事する気あんの? 無いんなら、全部黒ネコさんに任せて、あんた方は潔く配達業務から撤退したら? あんた方の主力商品のゆうメールだって、黒ネコさんには厚さ1センチとか2センチまでなんて総務省を後ろ盾にして規制をかけてるんで(そうかも)なんとか利用者がついているが、その規制を外せば完璧にネコちゃんに負けますぞ。だって今だって追跡もできる黒ねこメール便は、80円で翌日ちゃんと届くんでっせ。
 ところで先ほど九時ちょっと前、例のKさんが再配達してくれました。その時も以上のようなことをかいつまんで説教させてもらったけれど、要するに言いたいのは、「物を届ける」という、送り手にも受け取り人にも喜ばれ感謝されるありがたーいお仕事、もっと気入れてせんかーいっ!!!

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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