嗚呼、一等国!

※いま右のコメント欄で、久しぶりに面白い駄洒落を思いつきましたのでご覧下さい。 

今朝の某紙のネット・ニュースによると、訪米中の安倍首相が戦略国際問題研究所(CSIS)での講演で、「日本は一級国家。今も、これからも二級国家にはならない。それが、私が一番言いたかったことだ。繰り返して言うが、私はカムバックした。日本も、そうでなくてはならない。」と言ったそうだ。この発言は、アーミテージ元国務副長官など数人の発言に反論してのものらしいが、おいおい安倍よ、またもや君の古臭い国家観が見えてきたよ、と言わざるを得ない。古臭いだけではなく、きわめて危険な国家観である。
 実はいま紹介したのは演説の冒頭部分だけで、さらに読もうとすると、「記事全文をご覧いただくには、××新聞デジタルへのログインが必要です。」とのメッセージが入って、登録会員でなければ読めない仕組みになっている。いったいいつからこのような次第になったのか覚えていない。実は一昨年の大震災・原発事故からしばらくして、それまで一度も止めたことの無い新聞購読を止めた。その新聞だけでなく他のすべての新聞、さらにはテレビ報道が「奈落の底から」見ると、それまで気づかなかったこと、つまりいかにいい加減な報道がなされているかに嫌気がさしたからである。
 もちろん中にはこれはと思う的確な記事、自分の蒙を啓いてくれる記事が無いわけではない。しかしそれはきわめて稀で…なにか適当な喩えを、と思ったが出てこない。
 しかしそれら以外に情報を得る方法は無いわけで、その後は講読はしないが時おり各社のネット報道やらテレビ報道を、かなり覚めた眼で見るだけになった。では外国ではどのようになっているのだろう。私が時おり覗いているのはスペインの新聞、特に「エル・パイース」や「ABC」などスペインを代表する大手の新聞だが、ニュースの途中で「ここからは登録会員のみ」などとまるでどこかの秘密クラブ入り口みたいなことはしていない。
 秘密クラブなんて上品(?)な喩えを使ったが、本当はそうした扱いを受けるたびに、まるで祭りの見世物小屋で客の興味を引きそうなものをちらりと見せて、後はお代を出せば見せてやるよ、と言われているようで誠に味気ない、というより、はっきり言って不愉快である。
 たとえば高い執筆料を払って掲載する記事に対して、読みたければお代を払って、と言われるならある程度なっとく出来る。しかし事件や、安倍首相の演説内容など、国民が知る権利のある(かな?)ニュースまで金を払わなきゃ教えない、というのは、どうだろう? 報道に携わる者として、たとえ無料でも国民に知らせたいと思わないのだろうか。
 もちろん現今、新聞社や出版社がコンピュータやケータイなどの急速な普及によって経営的にも大変困難な時代を迎えていることは重々承知しているし、同情もしている。とにかくこれまでのように、まるで総合商社並みに肥大化し巨大化した組織では、多数の社員・従業員のみならずその家族を養わなければならないという事情も分からないでもないが…
 思わず本題から離れてしまった。そう、安倍首相の演説のことである。記事の途中だから、この首相演説を記者はどういう魂胆から記事にしたのか分からないが、つまり批判的な目で記事にしているのか、それとも…私がこの記事を読みながら、思わず連想したのは、むかし李香蘭つまり山口淑子が初めて故国日本に帰ってきたときの話だ。彼女の乗った船が下関へ入港し、水上警察の係官が上船してきた。彼女がパスポートを出すと、警官がとつぜん怒鳴り始めた。

「貴様、それでも日本人か!よく聞け。一等国民の日本人が三等国民のチャンコロの服を着て、支那語なんぞ喋って、貴様! 恥ずかしくないか、え?」

 安倍晋三の言う「一級国」はこの水上警察官の言う「一等国」とまったく同じことである。こんな時代錯誤的な言葉、というよりそういう発想をする人間が、今の日本を代表する首相であることをしっかり認識する必要がある。これが何を意味するかが分からない人は、そう、いつのまにかアベノミクス(何だこりゃ!ザケンジャナイ!)の術策にはまり始めていると思ってください。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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嗚呼、一等国! への4件のフィードバック

  1. HC のコメント:

    秘密クラブと祭りの見世物小屋ですか。

    私は、”おにいさん、この先は、もう一枚お札をくれなきゃ見られないわよ〜”と云う類いを連想しておりました。
    あれほど広告を載せていても経営が成り立たないのでしょうか。

    そろそろ、奉仕の精神をもって、その秘密クラブに参加してみようかなぁ、とも思っている昨今です。

  2. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    どこのどなたか存じ上げませぬが、おっとすみません、ペンドルトンにお住まいのHCさんでしたね、書き込みありがとうごぜえやす。いつものことながらアクセス数は単なる数字の羅列かと、狼少年の悲哀を味わっていましたです、はい。

  3. 阿部修義 のコメント:

     今、日本に必要なのは、先生が言われているように、相手の異質性を認め尊重する姿勢を海外に発信することだと思います。中国は日本の25倍の国土を持ち、10倍の人口を有する大国です。安倍総理の言葉は中国を意識して言ったものだと私は思いますが、中国人の感情を逆撫でするだけなように感じます。尖閣諸島問題もアメリカの後ろ盾を期待して強気の姿勢を取っていますが、先生が何度も言われているように共同管理が一番解決策としては賢明な発想です。先生が「危険な国家観」と言われているのは、現状を謙虚に直視しないで、何かあったらアメリカ頼みという盲目的依存国家というニュアンスを感じたからだと私は思います。

  4. アバター画像 fuji-teivo のコメント:

    いつも的確ですばやい反応、励まされています。これからもどうぞよろしく。私だけの杞憂ならいいのですが、いま日本はどんどん、しかし一見緩やかに静かに危険な傾斜を強めているように思えてなりません。テレビや新聞など、ただ出来事を伝えているだけで、鳴らすべき警鐘もほとんど聞こえてきません。以前から言ってきたことですが、かつてはあった革新も無ければ、こういうときに仲間にキツい活を入れる良質の保守も無くなりました。いま石橋湛山のように、と書こうとしたら、石破氏[イシバシ]などという、あのやたら目が据わった、愚論をいかにも論理的に見せかける政治家の名前が出てきてビックリしました。いや、ほんとに。

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