「おや久しぶりだね、こうやって登場するのは」
「こういう時は二つに一つ、つまり何も書くものがなくて行き詰っているときか、あるいは書くことがあまりに多くて収拾がつかないとき」
「今回はどちら?」
「なに分かっているくせに」
「…ここんとこ隣りのコメント欄が大賑わいで、しかも内容が充実してるんで、いろいろ刺激を受けてるんだろ?」
「本当だね、発端は元アメリカ海兵隊員の証言だけどいつもの通り立野さんが実にいい方向に話を引っ張ってくれたね」
「彼、読書会で年季が入っているせいか実に適切な例を出してくる」
「そう、先日は小熊秀雄のことを教えてもらったけど、今回はまず大西巨人を」
「小熊秀雄をまだろくろく読まないうちにアマゾンから『神聖喜劇』を取り寄せたね」
「文庫本ながらそれぞれ500ページもある五巻本をね。いや実はまだ届いていないんだが、その前にヴォネガットのものが届き始めて、いまそれに夢中になっている」
「貞房文庫に彼の『チャンピオンたちの朝食』というのがあるけど、どうせモハメド・アリやマイク・タイソンの話かと思って読みもしなかったけど、どうもそんなんじゃなさそうだね。いや今回、立野さんのコメントの中にあった『国のない男』と『スローターハウス5』を取り寄せて、まず『国のない男』を読み始めたんだが、これが実に面白い。読みながら何度も笑ったけど、こんな腹の底から笑える良質のユーモアなど最近出会わなかったんで、感動さえしている。時には目頭が熱くなり、そしていつしか勇気をもらっている。それで今日は『ヴォネガット、大いに語る』のほか4冊も注文しちゃった」
「そんなに読む時間あるの? だってそのうち『神聖喜劇』も来るんだぜ」
「ないかも知れない。だけど実際に読めなくとも、ヴォネガットみたいな作家のものを読まないで死ぬのはもっと辛い」
「君きみ、大事なこと忘れてるよ。今回は立野さんのものも取り寄せてすでに読み始めてるんだろ?」
「バレたか。肝心の立野さんの本だけど、彼が何冊も本を出してることは知っていたが、申し訳ないけど実は今まで一冊も読んでなかった。ところが今読んでいる『紀行 星の時間を旅して』(彩流社、2015年)これが実にいい。特にフランチェスコについて書いた「アシジからの手紙」に感動した」
「フランチェスコは君の洗礼名なのに、フィレンツェまで行きながらアシジにはとうとう行かずじまいだったもね」
「いやいつか行けるだろうと思ってたんだが、もう行けなくなってしまった。ともかく立野さんのフランチェスコ論、確か彼はクリスチャンじゃないはずだけど、清貧とか信仰とかむつかしい問題をめぐって非常に深い考察をしている」
「アシジの前にあるサンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼の話だって彼は実際に歩いたんだから見上げたものよ。君なんぞ終点のコンポステーラを観光客としてちらっとみただけだもんな」
「…話は変わるけど」
「逃げたな!」
「彼が一般の参加者相手に読書会を主宰しているその成果を今回取り寄せた『世界文学の扉をひらく――第一の扉 運命をあきらめない人たちの物語』(スペース伽耶、2008年)のように本にするというのも実にいい考えだね。彼に導かれて世界文学の扉を開く参加者たちは実に恵まれてる」
「要するに彼はただ教室で文学論を講じるだけでなく参加者の主体的反応を刺激しながら実践的な文学体験を指導してるわけだ」
「そういえば彼は『平和菌の歌 モノディアロゴス第十三巻』を十冊も購入してこれはと思う人に上げてるそうだよ。」
「私ならそんなことようできませんわ。それはともかく先日もお願いしたように、第十四巻の解説、絶対に書いてもらおうな。どんなに長くても大歓迎」
「心配はただ一つ。本体より彼の解説の方が目立つこと」
「それもいいんじゃない? 本体も引き立ててもらえるんだから」
「そうだね」
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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