「教育」部門全国第三位

日本経済新聞社が行った、子育て環境や高齢者福祉といった住民サービスの充実度を集計・比較する「行政サービス調査」で、なんとわが原町が信じられない成績を上げている(「日本経済新聞」十一月六日付)。現在はいわき市に住む姉がびっくりして切り抜きを送ってきた。それによると東北六県の七割弱が全国平均以下なのに、東北では原町市が二位の仙台市を抜いてトップ、そして「教育」部門ではなんと全国第三位なのだ。「小中学校に導入したパソコン台数や土曜日の補習・自習支援が際立っている」そうだ。
 もちろんこの数字が教育の質そのものを示しているかどうかは分からないが、しかし少なくとも教育環境作りにがんばっていることだけは間違いないであろう。ただわが愛する町が、教育環境として全国第三位だという実感は残念ながらあまりない。特に地方の小都市としては当たり前のことかも知れないが、高校を卒業して大学に進学した者のうち、卒業後に地元に帰って就職する率はきわめて低いという現実に何の変化もないからである。
 原町と隣町の二つの町の文化センターでスペイン語教室のボランティアをしているが、中高生で興味をもって近づいてくる生徒は一人もいない。それでも先日、珍しく高三の女の子が一人、教室を覗いたが、彼女とて来春の指定校推薦が決まったからであって、たとえ勉強しても来春からは東京の大学の第二外国語で勉強するわけであろう。それだからと言って別に文句があるわけではないが、地元に将来とも生活基盤を置きながら、しかも広く世界に眼を向ける若者は育たないのであろうか。
 そんなことを言いながら、私自身、かつては常に東京を目指し、意識し、現に都会暮らしを生涯続けるはずだったのだから、とやかく言う資格はまったくないのである。でもだからこそ、地方で生まれ育ち、そして世界に向けて発信できる文化の創造に、微力ながら死ぬまでがんばってみたい、といよいよ切に願っているのである。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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