地中海の光と風

アラン・ドロンの特集なのだろうか、彼の主演映画が衛星テレビで連日放映されている。一昨日からはテレビ用映画の『アラン・ドロンの刑事物語』という一回一時間四十五分のドラマがあり、今晩がその最終回となっている。彼はマルセーユの警察上層部を巻き込んでのスキャンダルに敢然と闘う実にカッコイイ退職間近の刑事を演じている。もともと、『太陽がいっぱい』の青年のように、なんとか成り上がりたいという、美男だが、どちらかというと品性のない男の哀愁みたいなものを漂わせた俳優だったが、今度の映画ではそれなりの年輪を重ねた風格のある男に仕上がっている。今何歳になったのだろうか。
 ストーリーは、モロッコあたりから押し寄せてきたアラブ系住民がからんだ犯罪を扱っているが、それにしても現在のフランスが抱える人種問題の底の深さを思わせる。アメリカの黒人やヒスパニック問題のフランス版というところか。
 しかし、そんなことより、この映画の舞台である地中海の息を呑むような美しさに感動する。飛行機(それ自体古臭い言葉だが)に乗るのが怖いので、もう一生海外に行かなくてもいいと思っている私たちでも、思わずもう一度あの地中海の光と色と風を感じたいと本気に思ったほどである。モンブラン・インクのロイヤル・ブルーを垂らしたような、あの気が違ってしまいそうな深い藍色……
 たぶん行かないだろう。その代わり、懐かしくなったら、『太陽がいっぱい』や今度の『刑事物語』を見てため息をつくことにしよう。そんなことだったら、ビデオをけちって3倍速などではなく「普通」で録画すればよかった。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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