VHSカセットテープの修繕法

 『男はつらいよ』の二本(「浪花の恋の寅次郎」と「寅次郎恋愛塾」)と『デスティニー 愛は果てしなく』の入ったカセットテープが動かなくなった。出して調べてみると、どうも途中でテープが切れているらしい。カセットの下蓋を上にして、五本のねじを外す。注意深く下蓋を開ける。
 最初、ここで間違った。つまりねじを外したら、次にカセット全体をもう一度表に返さなければならなかったのだ。最初のときはそうしなかったので、下蓋を外す際、小さなアルミニウムの円筒(テープな回転を滑らかにするための)が外れて、さてそれがどこにあったものなのかが分からなくなって失敗した。
 ところで切れたテープを繋ぐ作業だが、これには普通の透明なテープより少し白濁したメンディング・テープの方がいい。つまり時間が経っても乾燥して剥がれることがないからである。今回のテープも、切れた場所は以前一度切れて普通のテープで補修した箇所だった。たぶん十年前に修繕したのだろう。そのときも下蓋を上にした状態で外して失敗したことをやっと思い出した。普通のカセット・テープ(つまり音楽などを録音するための小型のテープ)のときも同じ手順で箱を開けなければならない。
 話をもとに戻すと、カセットを裏返して、五本のねじを外したら、こんどはそれを表に返してから上蓋を外すというやり方を教えてくれたのは「ウィキペディア」である。つまりそこの「VHS」を検索し、画面が出たら中ごろあたりに「規格一覧」があり、その右横に「テープ構造」の小さな写真が出る。それをクリックで拡大すると、上蓋を開けた状態がはっきり分かる。先ほどの小さな円筒がどこに来なければならないか、これで確認できたわけである。
 壊れたカセットなど「燃えないゴミ」として棄てたっていいようなものだが、苦労しいしい壊れ物を直すことそれ自体に幾ばくかの充実感がある。テープなど惜しくはないが、そうしたささやかな充実感をおめおめ無駄にするのはそれこそもったいない。だぼだぼと締りのない日常にいささかの緊張感をもたらすのも、そんなささやかなこだわりの意味である。昔風の(?)ご老体が、丹精こめて盆栽の世話をするのと同じこと(やっぱ、そうとう暇なんだなー)。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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