除湿機

先日、家庭電器の量販店で除湿機というものを初めて買った。つい最近まで加湿器を使っていたような気がするが、どちらにしても空気の流通がすこぶる良好な木造ボロ家でどんな意味があるのか甚だ疑問である。加湿器の場合は湯気が絶えず出ているので、なんとなく乾燥を和らげてくれるような気がしていたが、今度の除湿機にしても、つけっぱなしにしておくと、3.5リットルのタンクが満杯になり、その度に洗面所に捨てに行く。それにしても溜まった水は透明で美しく、これでいざというときの飲料水は大丈夫だなどと変なことを考えそうになる。ともかく一日7リットル以上の水分を吸収してくれるのではないか。といって、先にも言ったように、外から絶えず空気が入り込む構造(?)の家なので、まるで大気そのものの湿気を取り除こうとしているみたいで、その無謀さには哀れを催すが。
 普段は気にしていないが、時たま客があったりすると、室内には動物臭が充満してるんだろうな、と改めて気になる。だから今回の除湿機も、マイナスイオン脱臭という効能書きに吊られて買ったのだが、果たして効果があるのかどうか。動物臭といってもはっきり言えば下半身不随犬の大便小便の臭いである。プラスチックの大きなキャリーの下部分に新聞紙二枚を広げ、その上にさらに紙オシメを二枚敷く。排泄器官そのものが麻痺しているとは思えないのだが、不随になる前からバカ犬なので時を選ばず排泄する。その度に新聞紙を取り替えるので、古新聞のストックは疾うの昔に底を突き、今ではその日の新聞を読んだ先から使っている。もちろん下手をすると昼過ぎには使い切ってしまい、あとは大型広告紙を代用することになってしまう。
 1992年(アメリカ「発見」500周年)の11月3日生まれだから、もう11歳の老犬だが、心臓病の薬を一日一錠飲んでいるせいか、すこぶる元気である。一時は運動不足と過食から丸太ん棒か魚河岸の冷凍マグロみたいになったが、「高齢犬・肥満犬用」のドッグフードに換えてからは少しずつ体重が減ってきた。自由に動き回る猫たちを時々羨ましそうに見ているのを見ると可哀想になるが、しかしこうして痛いところもなく生きていることを諒としなければなるまい。と言いながら、風に長髪を靡かせて走り回っていたかつての姿を思い出すと胸が痛くなる。いつか来るその日、涙無しに見送れるよう、妻と今から少しずつ心の準備をしている。                          

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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