「敏雄さん、埴谷さんと比べっと、君仙子さんがやっぱりいちばん偉(えれ)―し、小高町にいちばん貢献してっと」
「それは人それぞれの評価あっぺけんちょも、誰がどれだけ偉いなんてことは一概に言えねーべ」
「なんでおめーいちいち人の言うことさ文句付けんだー。ばっち子 [末っ子] だから僻(ひが)んでんだべ」
「あらあらー、なんてこと言うだべ。時々俺がバッパさんのことを批判するのは、俺がばっち子であることと何の関係もねー。そうではなくて、ときどき人の良心にずかずか踏み込むような言い方することや、たとえば今日のようにセンターさ送り迎えすっとき、なんでありがとーと一言いえねーのかつうことだ。そこらの小学校のわらしだって、アリガトーと言うべー」
「心に思ってねーことただ形式的に口に出す方が変だべ」
「何言うだべ、心の中に思わねーつうことの方がもっと悪いべ」
「……どうしたらよかんべ」
「……そんなこと簡単だべー。できる範囲で努力したらよかんべ」
「これから間に合うべか?」
「大丈夫だー、まだ死ぬまで時間あっと。がんばっぺー」
いつもの通り「老人センター」に行く車の中での今朝のやりとりである。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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