バッパさんの本棚を整理していたら、大井義典という人の『無の勝利』という詩集が出てきた。確かこの人から別の詩集を直接もらったことがあったと思い出し、階下の本棚を探し回ってやっと見つけた。『線』という簡素な詩集である。前者の発行は1972(昭和47)年、後者は1977(昭和52)年である。すると彼から『線』をもらったのは、1977年以降ということになる。著者略歴を見ると、生まれは明治33年、つまり1900年だから、そのころ 80歳だったのだろうか。しかし思い出の中の彼はもっと若かったような気がする。もちろんもう亡くなられたはずだが。
ところで『線』の中に「線の思想」という随筆が挿入されており、その冒頭、ウナムーノの文章が引用されている。それがウナムーノのなんという作品からの引用かまだ調べていないが、たぶんバッパさん経由でウナムーノの存在を知り、その作品を読むにいたったのであろう。東北の片田舎で、しかもかなりの歳になられてからウナムーノの思想に惹かれ、そこからなにがしかの影響を受けた人がいたということ自体、嬉しいし、思想というものの普遍性に改めて感動する。生きておられたとしたら、今103歳。もう少し前に再会を果たしていたら、と残念に思う。この二冊の詩集をしばらく手元に置き、彼の想いをたどってみたい。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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