ともかく始めることだ

モノダイアローグという言葉は、スペインの思想家ミゲル・デ・ウナムーノの造語 monodiálogo の英語読み(なぜ英語読みにするのか、いささか問題ありだが)である。と書いて怪しくなり、西和辞典を調べてみたら、やはり載っていない。その意味するところは、独語(モノローグ)などというものは存在せず、あるのはすべからく自分と他の自分との対話(ダイアローグ)である、といったほどの意味であろう。もっと正確な定義(ウナムーノが嫌悪した言葉をとりあえず使うが)が見つかった時点で修正するかも知れない。
 ともあれ、このモノダイアローグという言葉の下に、いったい何を書いていくつもりか、実は自分でも釈然としていない。ていうか(あれ、これは今流行の嫌な言葉遣いだ)見当もつかないというのが真実である。日々去来し消えていく(ほんと、歳のせいかその消え方の早いこと)さまざまな想念(妄想?)たちの切れ端をなんとか捕まえて、それらが何らかの意味を持つ思想になってくれないか、という虫のいい願いが根底にある。果たしてそううまく問屋が卸してくれるか。でもどっちみち始めないことにはそれこそ始まらない。
 なぜ半ば公開の日記を書くのか。それは友人たちの目を意識することで、単なる独り言がウナムーノの言う意味での独対話になることを願っているからだろう。しかしこの方法は、下手をするとだらしなく流される涎のような言葉の羅列に終わる可能性がある。だがことさらな気合を入れるつもりはない。ここはひとつ長丁場と心得て、自然体で行きたい。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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