きぼう?何と重たい字面!

ところでわれらのスペイン語教室は別名を持っている。ESPERANZA(希望)である。スペイン語の単語で国際的に通用するのは、フラメンコとかゲリラとかカルデラとかいろいろあるが、いかにもスペイン的な響きの言葉の一つがそのエスペランサであろう。
 あまり腹立たしいのでろくに見もしないし読みもしないが、今度打ち上げられた人工衛星の部品(?)の一つ、ささやかな日本向けの機械が「きぼう」と言うのだって? せめて漢字の希望だったら格好がつくものを。日本人宇宙飛行士の参加費はいくらで、その部品搭載にいくら払ったのだろう? 気になる。
 いや金がかかるからイチャモンをつけてるわけではない。んっ! やっぱ金がかかるからかも。要するに、宇宙開発がそんなにすばらしいこと、掛け値なしの賞賛に値することなんですか?ということである。ほんとにエンデバー(endeavor=真剣な努力)なんでしょうか? だって私たちが住んでるこの地球が、いまとんでもない危機に陥ってるというのに。宇宙開発に使われるそれこそ天文学的な数字の金を、温暖化対策や砂漠化対策に使えば、もしかすると国土が日々海に埋没していく恐怖におびえている南の島の人々を救うことができるのではないですか。
 開発推進者や賛同者からは、地球が駄目になりそうだから宇宙に活路を見出そうとして、まさにエンデバーしてるんだよ、との反論が返ってくるかも知れない。だがちょっと待てよ! 泥舟を捨てるつもりになってるの? 君、根本的に間違ってるよ! それこそお天道様に申し訳が立たない。さんざっぱら利用だけ利用しておいて、都合が悪くなったら、はいサヨナラ、というわけですか?
 テレビのコマーシャルで、「地球に優しい原子力発電からできた高放射能の廃棄物を何千メートルか地下の安全なところに埋める計画に賛同する市町村は、手を挙げてください!」などと可愛い女の子を出しに使って、まっことおっそろしい計画をいけしゃあしゃあと宣伝している。おいおい、表面のほうだけでなく、地下までぼこぼこ穴掘って汚す気かい?
 どこかにもう書いたことだけど、私の大嫌いな言葉の一つは、「そこに山があるから」だが、科学の進歩・発展を絶対視して、そこに何の危険も察知しない頭でっかちの進歩主義者たちよ、君たちは間違ってるぞー。もしかして君たちに限らず人間というものは、滑車の中の二十日鼠みたいに、スピードを上げて走っているつもりで、実は同じところを廻っているのかもしれない。《愚かさ》という車軸の周りを。近・現代の歴史をちょっと振り返っただけでも、そんなことは火を見るより明らかなこと。でも世の大勢はそっちの方にどんどん流れていくんだなー。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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