風のガーデン

倉本聡監督の『風のガーデン』、明日が最終回である。初め、いやこれまでの10回の放映のうち8回くらいまで、なにかばたばたしていた。これへの出演を最後にあの世に旅立った緒方拳のことも含めて、なにかと話題性だけが先行していた感じであった。ドラマは主人公が死を迎える富良野の周辺の美しい自然の中で展開されるが、それがこのドラマに時おり見られる通俗性をずいぶんと救っている。通俗性とは、たとえば『北の国から』のヘソ祭りだったり、『風のガーデン』でのよさ来い踊りがそれだが、でも逆に言えば、倉本聡はそうした通俗性という小道具を上手に利用しているとも言える。
 美しい自然がこのドラマの通俗性を救っている、と言ったが、もちろんそれ以上にこのドラマに深みと奥行きを与えているのは全編が「死」を中心に展開していることである。それが見事な展開を見せ始めるのが9、10の二つの回なのだ。ここにきて、ドラマが一気にしまってくる。つまりこれまでばらばらであったものが、いかにして人間は死を迎えるべきか、という重い主題の周りに収斂し始めたのである。
 自身間もなく死を迎えるはずの緒方拳の演技はそれこそ迫真の演技だが、その他の出演者たちもそれぞれがしっかり自分の役割を演じている。主演の中井貴一が実にいい味を出している。『ふぞろいの林檎たち』あたりからその実力は認めていたが、私の中で彼に対する評価を一気に高めたのは、2003年の中国映画『天地英雄』の遣唐使役を見たときからである。主演の名優姜文(チアン・ウェン)に一歩も引けを取らないばかりか、かっこ良さでは彼を越えていた。
 さて明日が最終回。どんな結末になるのか、いや筋としてはすでにだれもがその結末を承知しているが、楽しみは倉本聡がそれをどのように料理するか、である。明日はスペイン語教室の親睦会(俗に言う忘年会)だけれど、帰ってきてテレビの前に坐るのが今から楽しみである。

(今晩は何も書くものが無かったので休もうと思いましたが、何人かの人は楽しみにしてくれているので、なんとかそれに応えようと、ちょっと頑張ってみました。長さだけはなんとか書きましたが、内容は寂しいものでした。明日は挽回しましょう、おやすみ!)

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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