貞房文庫全体を一冊の本に見立てて

  • ウナムーノ、オルテガ、ルイス・ビーベス、ライン・エントラルゴ、イグナシオ・デ・ロヨラ、フラシスコ・ビトリア、メネンデス・ピダル、アメリコ・カストロ、マダリアーガ、アラングーレン、フリアン・マリアス、アントニオ・マチャード、エウヘニオ・ドールス…
  • 島尾敏雄、埴谷雄高、小川国夫、安岡章太郎…
  • ダニエル・ベリガン、シモーヌ・ヴェイユ、イヴァン・イリッチ、T. S. エリオット…

 以上、今思いつくままに書き並べた名前は、これまで研究対象として読んだり翻訳したり、論文に書いたりしてきた、あるいはそうしないまでもその著作を集めていつかは正面切って取り組んでみたいと思っていたスペインの思想家や日本の作家、それ以外の国の作家・思想家たちである。いやいや、こんなものではない、例えば石川淳、漱石、鴎外、中島敦、あっ大事なひとを忘れていた、魯迅…きりが無いのでやめる。
 大江健三郎は恩師・渡辺一夫の奨めに従い、三年ごとに主題を決めて、毎日その本を読むことを続けてきたらしい。しかし今の私の年齢では三年周期というのはちょっとまどろっこしい。せめて一年周期ぐらいでないと、気にかけていることの十分の一もできないことになる。健康に恵まれたとしても、あと何年頑張れるか。
 それでこんなことを考えているのである。
彼らの作品をまとめて読んだり、彼らについてなにがしかのことが書けないとしても、せめて彼らの魅力やら、自分がここだと当たりをつけた問題点に近づくための略図、ちょうど宝島の所在やら宝の在り処をを示す大まかな地図のようなものを描いておきたいのだ。(だれのために?そこが問題だけれど、今はとりあえず話を進める)。材料はわが「貞房文庫」にある本に限定する。つまりだれかがイグナシオ・デ・ロヨラについて調べたいとする。すると彼の邦訳文献(中には拙訳になる彼の自伝やら霊的日記がある)にはこれこれのものがあって、この本の〇〇ページから〇〇ページは特に読むこと、スペインの作家・思想家なら原書もありますよ、などといった実践的なコメント付きのリストを作るのである。
 そんなことは百科事典やインターネットを検索すれば簡単に知ることが出来る、と言われるかも知れない(誰が?そんな反論をするほど真剣に聞いてる人などいないずらよ。それどこの方言?)。いやーそれが違うんだよなー。つまり手にとってすぐ調べられる文献、先達(この場合は私)が線を引いたりした(汚くなるので、なるたけそうしないようにしているが)文献やら資料がすぐそこにあるわけだ。要するに「貞房文庫」全体を文字通りの宝島にしたいわけだ。
 べつだん研究論文でもなく、無責任そして挑発的な道案内だから気楽なものである。でも本当に活用できるものにするには、この貞房文庫をいわば一冊の本に見立てての索引を作らなければならない。大項目と小項目…うーん、そうなると大変な作業になるぞ。いや一気に仕上げるとなると大変だけれど、ちんたらちんたら、これまでの仕事振りそのままに、しつこく根気よくやっていけば、何年後かにいくらか輪郭がはっきりしてくるかも知れない。
 今まで少数の人には見てもらったが、「貞房文庫」にある本はかなりのものが世界に一つしかない本である。と言ったら少し嘘になるが(またこの言葉を使ってしまった)、実際には、世界に一つしかない装丁の本が数多くあるということである。つまり元はと言えば妻のハンドバックだったり、古くなったレザーコートだったものの革で背や全体を装丁したものとか、むかし義父が奮発して仕立ててくれた礼服を表紙にした(どうやってもボタンがはまらなくなったので)豪華本とかが揃っているということである。
 誰も読んでくれないばかりか、いつかは朽ち落ちてしまうのに無駄ではないかと思いながら、もうだいぶ前から続けている一種のボランティアである。
 書いているうちに、まだ自分の中でもしっかり想が固まっていないことに気づき、唐突だが今はこの辺でやめておきます。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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