地下鉄のザジ

おそらくは八百本近くになろうと思われるビデオ映画をDVDに移す作業がまだ終わらない。時間を見計らっての機械的操作だから、ダヴィングの時間そのままを取られているわけではないが、なんて馬鹿げたことをやってるんだろう、などとボヤキながら、ともかく乗りかかった船、最後まで終わらせないと気がすまない。
 今機械的といったが、ときおりまだ見ていない(半分くらいがそうかも知れない)映画を部分的に見てしまうことがある。たまたま今日移し終えたものに、フランス映画の『地下鉄のザジ』があった。フランスの詩人・小説家レーモン・クノーの原作を映画化したものということだ。一時期話題になったフランス映画のヌーヴェルヴァーグ運動の先駆けとなったルイ・マル監督のコメディ映画である。 紹介記事によるとストライキで地下鉄が運行していないパリを舞台に、少女ザジが町をさまよう様子をシュルレアリスム的でスラップスティックな表現で描いたものらしい。
 しかし飛び飛びに見た感じでは、まったく面白さが感じられない。そもそもスラップスティックそのものが性に合わないのかも知れない。これと同じ印象、つまり面白味のなさは、イギリスでは人気が高いらしいミスター・ビーンのコメディにも感じた。なんでこんなものが面白いんだ、と見るたびに腹立たしい思いがした。「笑い」は国や文化の違いがもろに関係しているものだろうから、他国の人が面白いと言っているものにケチをつける気はないが、しかし同じくイギリス生まれのチャップリンの方はじゅうぶんに面白く感じられるのはどうしてか。
 ザジなどという不思議な名前を持った女の子に興味を持ったのは、私の例の性癖(?)、つまり強い女の子好き、からだったが、たしかにこの女の子(カトリーヌ・ドモンジョなどというカトリーヌ・ドヌーブとミレーヌ・ドモンジョという二人の美人女優と紛らわしい名前の持ち主で、少し歯の欠けた元気な女の子だが、話の展開そのものがあまりにも荒唐無稽で、ザジの魅力半減いや激減でまったく付いていけない。
 ともあれ、モモや長靴下のピッピー、そしてこの地下鉄のザジ、などなど、これからも強い女の子モデル探しを続けるかも知れない、書けるかどうかも分らない私のファンタジーの主役を探して。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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