もうすぐキックオフ

結局、K叔父には『国家の品格』に私の論評を加えて送ることはしなかった。やはりまともに相手にするのが馬鹿らしくなったのである。よくもまあこんな駄作がベストセラーになっていることよ、と不思議に思った。いやベストセラーというものは、そもそもがそういうものなのであろう。つまり中身のないすかすかな文章、それでいてあたかも内容があるような思わせぶりな措辞…やめた、ベストセラー分析などそもそもが馬鹿らしい。
 新たに論評を書き下ろさなかった代わりに、ここ四日間のモノディアロゴスをプリントして同封した。もちろん「とんでもなく明るい声で」などという失礼な表現は適当に言い換えて。それだけでは、あのレターパックはそれこそすかすかなので、貞房文庫には2冊ある島尾敏雄と小川国夫の対談集『夢と現実』も同封した。島尾敏雄と同じ歳の従弟であるK叔父さん、だれよりも長生きするんだから、死者たちの分まで…
 週一回の風呂をやっと終えて、美子はいま寝たところ。私は久し振りに、アルコール分7パーセントの焼酎ハイボール缶を飲み終えて、あと十分でキックオフのアジア・カップ、対オーストラリア戦を待っているところ。香川が抜けたあと誰がそのあとを埋めるのか? 
 今日の午後とどいたJ・グリーンの『閉ざされた庭』について話そうと思っていたのだが、それはまた明日のことにしよう。それでは皆さん、お休みなさい!

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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