ありがたや毛細管現象!

機械の説明書は良く読んでみるもんですな。黒インクが出ない謎が解けました、というより、インクが出るようにする方法が見つかりました。濡れティッシュをカートリッジのヘッドの部分にあてがい、五分くらい放置するとインクが滲み始める、つまりインクが出てくる、と書かれていた。やってみた、滲んだ!
 印刷してみたら、なんとちゃ―んと印刷できた! ただ何行かおきに不鮮明なところがあったので、これはプリントヘッドの位置を調整すればいいらしい。これまでインクを補充するたびに出ていたメッセージの意味が初めて理解できた。そしてマニュアルの指示通りに調整したら、全行鮮明に印刷できた。ばんざーい!
 ところが、以後のために濡れティッシュ云々という指示に赤線を入れようと「操作ガイド」を見直しているのだが、どうして見つからない。もしかしてあれは守護の天使がささやいたもの? まさか、そんなはずはない。ゆっくり探すことにしよう。昨日のことといい、どうしてこうまで記憶が怪しくなってきたのだろう。
 記憶が怪しくなってきた、といえば、その濡れティッシュがインクを吸い上げる現象を何というか、思い出せないでいた。二冊の類語辞典で、「吸収」とか「吸う」という項目を引いてみたのだが出てこない。あげくの果てに、西和辞典で absorberを、英和辞典でabsorbやabsorptionを引いてみたが該当する言葉が見つからない。それであきらめてもう一つの捜索をやってみた。すなわちばっぱさんが読んだという改造文庫である。書棚をていねいに探したが見つからず、「牧水紀行文集」巻末の目録を見たら題名を思い出すのでは、と調べてみたが、やはりどうしても見つからない。あきらめて、『モノディアロゴスⅣ』の編集の仕事を続けた。
 一昨年九月から昨年の七月までの分を終えたが、それですでに200ページを越えた。七月末からは一日も休まなかったので、おそらく八、九月分で総ページ300をらくらく越えるのでは。
 本当は『Ⅱ』や『Ⅲ』と同じ割付に、つまり余白や行数・字数を同じにしたかったのだが、どういうわけか行数・字数が同じにならない。つまり1ページ15行、一行38字にどうしてもならないのだ。たぶんこの間の修理の際、ワード文書のソフトが新しくなったせいかも知れない。いろいろ工夫して、けっきょく行数は13、字数44にした。つまり1ページの字数はほぼ同じ。字間がつまったことで読みにくいかな、と思ったが、実は今度の方がかなり読みやすいのだ。
 編集といっても要するに、一編を2ページ(約千字)か3ページ(千五百字)、多くて4ページ(二千字)内にうまく収まるように、必要とあらば適当に文章を剪定することである。今度の『Ⅳ』の特徴は、本来の長さである2ページものが極端にすくないこと、主題が2編から4編にまたがるものが結構あるということである。
 今日のものを書きながら、先ほどようやくあの濡れティッシュの現象の名前が思いだせた。そう、毛細管現象である。あともう一つのもやもやは、改造文庫のことだが、そのうちの一つ、つまり最近購入したのではとしきりに思い出そうとしていた本は、どうやら思い違いだったようだ。まだ残っているもやもやは、ばっぱさんの文庫本と、「操作ガイド」のありがたい指示がどこにあるかだ。まっ大した問題ではない、ゆっくり探すことにしよう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学など他大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、死去(享年79)
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