爺さまの夢物語

気がついてみたら今日は一度も外に出ないで過ごしてしまった。息子一家との再度の共同生活が始まって、これまでの緊張が一気に緩んでしまったからか、なにか宙ぶらりんのままに時間が過ぎてゆく。
 実はまだ二階に住んでいる。移るべき部屋の中に、古い家具やガラクタが思いのほか大量にあり、それらを連日のように頴美が黙々と袋詰めにし、今度はそれらを息子があの福祉車両の後部に積んで、クリーンセンターにせっせと運んでいるところだ。引っ越しは明日か明後日か。
 さて今日の午後は、夫婦してセンターにガラクタを運ぶというので、その間、孫の愛を引き受けることになった。愛はこのところジャンケンを覚えたてで、しきりに勝負を挑んでくる。小一時間いやたっぷり一時間、キャッキャキャッキャ大喜びで、まったく飽きるそぶりさえ見せない。そのうち「最初はグー」の後にグーチョキパーを出さず、代わりに様々なおどけ顔、次にでまかせの単語を叫ぶゲームへと移行。
 孫娘のお相手もなかなかエネルギーを要する。しかし側の美子は、久し振りの幼い肉声を喜んでいる様子なので、爺さまも愛の思いつきに合わせて、おどけ顔やらデタラメ単語を繰り出して応戦。良寛さんのように無心になれればいいのだろうが、邪念を捨てきれない俄かお爺ちゃんは孫の圧倒的なエネルギーに終始押されっぱなし。なかなかに疲れるわい。
 でも幼い魂がいろいろなものを吸収しながら日々成長していく姿を見守れるというのは、ありがたい巡り合わせと言うべきだろう。「愛ちゃんは日本語も中国語も、スペイン語も英語も話せるようになって、たくさんの本を読んで、いつか面白い本を書く人になるんだよ」などと、さっそく暗示をかけ始めている。
 都会のお嬢さん学校(ミッションスクール?)なんぞに行かないで、地元の素朴な子供たちと一緒に仲良く高校まで通い、しっかり勉強し、大学は叔母ちゃん一家が住んでいる大連に留学、なんて勝手な夢を見始めている。もちろんパパとママが賛成すればの話だけど。
 そのパパとママは、昨日から、おばあちゃんの大の始末を一手に引き受けてくれることになり、おじいちゃんは大いに助かっています。
 書き出すまでもやもやしていた疲れ気味の頭も、孫の話や久し振りの終末論的(?)な話が出来て、いつのまにかスッキリしてきました。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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爺さまの夢物語 への2件のフィードバック

  1. 宮城奈々絵 のコメント:

    先生、お久しぶりです。愛ちゃんと遊ぶ先生のご様子、ついつい笑顔になって読んでしまいました。
    子どもが周りにもたらすもの、本当にキラキラとしていますね。
    私にも愛ちゃんと年の変わらない末っ子がいますが、傍にいてくれるだけで幸せな気持ちになります。先生、奥様も同じ気持ちでいらっしゃるのだろうな…と思います。
    澤井さん、しばらくの欠席ご心配おかけしてすみません。この時期毎日忙しく、なかなかコメントをゆっくり書く時間がとれなかったので、専ら読み専門の受講生でした。
    今年もあと2日を残すのみですね。
    先生、お引越しの荷物が早く片付き、ご家族と過ごす、ゆっくりとした年越しが出来るといいですね。このblogで学べたこと、しっかりと今を生きていく勇気を頂いたこと、心から感謝しています。
    澤井さん、辻さん、澤井Jr.さん、美空さん、このblogで出会えたこと、本当に幸運だと思っています。
    このblogのおかげで、悲しいばかりの毎日にならなかったこと、人生の不思議と奇跡を感じることが出来たことに感謝申し上げます。
    来年、また新しい一年間、皆様にたくさんの良い毎日、そして自分らしい生活が訪れますように…と願っています。
    先生、年末、お正月は冷えるそうなので、体調を崩したりなさいませんよう、ご自愛下さい。
    またの講義を、そして愛ちゃんのお話、楽しみにしています。

  2. 山本三朗 のコメント:

    昨日で仕事を納め、今日は実家に来ました。淳さん一家の無事なる引っ越し、良かったです。そして、お疲れ様でした。先生と愛さんの遊ぶ姿をイメージし大変に嬉しく、年末の喧騒も忘れ、疲れも吹き飛びました。我が実家は千葉の御宿です。今も「月の砂漠」が防災無線から流れてきました。今日から親に甘えてきます(50歳ですが)。皆様がこころ温まる新年を迎えられることを太平洋から昇る太陽に祈ります。

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