無駄にに終わった時間? それはほとんど毎日がそうだ、と言えばあまりにも悲しい、たとえ実際にそうだとしても。しかしいま言おうとしているのは、実際に徒労に終わった時間のことである。人間にとって耐えられない拷問と言えば、中世異端審問の時に使われたというおぞましい限りの鉄製の器具などが頭に浮かぶ。しかしどこかで読んだのだが、責め苦の最たるものは、たとえば徒刑囚が朝駆り出されて掘った穴を、午後にはまた埋めるという単純作業を際限なく強いられることらしい。
つまり肉体的な責め苦は、ある所までいけば気を失うなり麻痺状態に陥るなりするが(…おいおい怖いこと言うなよ、それでなくとも痛さにはからっきし意気地が無いのに)、人間にとっていちばん耐えられないのは、「無意味」ということらしい。なんてずいぶんと思わせぶりな前置きをしたが、今回徒労に終わったことというのは、ある本に落丁が見つかり、それが気になり、アマゾンで調べると新刊でも九百円ちょっとで手に入るということなので、わずか十ページのために取り寄せたのだが、待てよ、その落丁部分を書き写して(パソコンで打って)古い方に貼り付ければ、新刊本は欲しい人にやるなり、つまり二冊の本が出来上がる。
それで暇を見つけては一字一句間違えないように書き写し、紙の大きさも本に合わせて裁断し、いざ差し込もうという段になって、おやおや何と! 実は落丁ではなく乱丁であったことが判明したというお粗末。しっかり読んでなかったことがバレてしまった。ともかく古い方のその部分を上手に切り取って、所定の位置(?)に糊付けしたというわけ。
だから何時間かかったか分からないが苦心惨憺タイプしたもの、しかも表裏にプリントしたものはゴミ箱に。
何の本ですか、って? ウナムーノの『内面の日記』である。そう、翻訳書ではなく原書、だからアマゾン経由で取り寄せた先はどこか外国の取次店。
この作品、というべきかは分からないが、ウナムーノが「死の影の下に」あったとされる最大の精神的危機(1897年)、に密かに書かれ、彼の死後5冊のノートのまま発見された日記で、これまで二回編まれた全集にも収録されてこなかった貴重な文献である。手元にあった1970年発行のものも、今回取り寄せた2011年発行のものも、共にアリアンサ社の新書版だが、今回のものは組版も新たに「ウナムーノ文庫」18冊のうちの一冊として出されている。
先ほど全集は二回編まれたと書いたが、私が持っているのは1966年から1971年にかけてエスセリセール社から出たA5判全巻総革製の赤い全集だが、その前のものは何だった、確か小型のやはり赤革のものだったが…そして奇跡的(?)に思い出したのである。名前さえ分かればあとはネットで簡単に検索できる。ベルガーラ社…出てました、1959年から1964年にかけてバルセローナのベルガーラ社から、エスセリセール社版と同じくマヌエル・ガルシア・ブランコ編集で出された全16巻全集である。
ウナムーノの作品を初めて読んだのはベルガーラ社版なので急に懐かしくなった。たぶんいまでは古本でも相当の値段がついてるはず。懐かしいで思い出したが、私がサラマンカに行った1974年に教授は既に鬼籍に入られており、未亡人にウナムーノ博物館など親切に案内していただいたが…あゝすべてが遠い過去になってしまった。
そんないろんなことを思い出すきっかけとなったのだから、今回のことも、結局は時間の無駄ではなかったわけで、そう考えれば、無駄な時間なんてものはもともとないのだ、と思った方が元気が出てきます。そう元気を出しましょう!
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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ふと、人生を川に架かっている橋として考えてみました。川の向こう岸に行くだけなら、橋の幅は50センチもあれば目的は達成されるでしょう。しかし、周りの景色をじっくり眺めて渡れません。もし、5メートルの橋幅があれば周りの景色をゆっくり眺め、心地よい川風を感じて自然と対話しながら渡れるんじゃないでしょうか。
人間は感性を養ったり、創作的なものを考えたりする時に「無駄」というものが必要なように私は思います。そして、人生は目的地に行くことに意味があるのではなく、目的地に行くまでの過程に意味があるように私は思います。