楽天、日本一!

「昨夜、帯広の健次郎叔父から電話があってね」
「原発事故関係の番組があると必ず電話くれるの知ってたけど、昨夜も?」
「知ってるくせにー、楽天の勝利を祝ってだよ。野球放送などめったに見ないけど、今年はレッド・ソックスのワールド・シリーズも楽天の日本シリーズもわりかし見たほうだね」
「スポーツの力と言うけど、実際大きな力をもらうね」
「楽天の場合、何よりも常勝球団の巨人に勝ったというのが嬉しいよね」
「プロ野球を見るようになったのは、むかし娘が巨人ファンだったからだけど、だんだんきらいになっちゃった。そういう新入りファン(?)はたいてい阪神ファンになるけど、私は別にそこまではいかなかった。でも12球団(でしたっけ?)のうち、球団名の後に軍なんてつけるの巨人だけだもね。なにか特権的なオーラをまとわり付けてる」
「巨人、大鵬、玉子焼きって言って、みんなと同じであることに安心する日本人の心性の表れだね」
「強いものが好きっちゅうのは誰でもそうだろうと思うけど。でも視聴率を稼ぐためか知らんけど、民放の野球放送が巨人中心で回っていて、プロ野球見なくなったのもそのためだな」
「でも星野監督を見直したね。大震災以来勝つことで東北を励ましたいと願ってきた、という彼の言葉を素直にありがたく思う。仮設住宅で涙を流しながら喜んでいる被災者たちを見ると、本当にスポーツの力は大きいなと思う」
「田中投手は兵庫出身だけど苫小牧の高校を卒業したし、彼の奥さんは道産子だし、こんどの勝利は東北だけでなく北海道を含めた北日本に大きな勇気と感動を与えてくれたね」
「第六戦で160球も投げて敗戦投手になったマーちゃんが、3点リードとはいえ九回表に出てくるとは思わなかったけど、これも喜びを倍加してくれたね。」
「こんな筋書き、野球の神様しか考えつかないよね。そっ、これはもうベースボールじゃなく日本特有の野球、いや野球道だろうね」
「アメリカ野球では絶対にありえない」
「今年のワールド・シリーズで奇妙に感じたのは、今年の流行なんだろうか、レッド・ソックスはほぼ全員バイキングのような髭もじゃ、カージナルスの選手も髭もじゃ。ベンチのなかだけじゃなく試合中もやたら唾を吐き散らすし、力まかせにバットをぶんぶん振り回すし、確かにスピード感や迫力はあるけど…」
「まっそれは文化の違いだろうからとやかく言いたかないけど、でも日本野球のいいとこは自信を持って守って行くべきだろうね」
「田中投手が、自分は負けることで成長してきた、と言ったらしいが、そのあたりも若いのに嬉しいことを言うね」
「そう、負けるが勝ち、といって負け続けじゃ困るけど、人生の大事な局面で勝つこと」
「人生の大事な局面? あゝそれこそクライマックス・シリーズ、その最大最高の場面は最後ですわ、つまり死に際して、あゝ我良き戦いを戦えり、と言えること」
「…残念ながら、俺まだまだそこまでの境地には…」
「もちろん未だ死なねえから安心しな。でもいい目標だろ? だったらガンバレよ」
「お前もな!」

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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楽天、日本一! への1件のコメント

  1. 阿部修義 のコメント:

     楽天と巨人は実力的には殆ど互角だったんじゃないでしょうか。しかし、徹底的に違っていたのは、楽天には心の底から自分たちの勝利を待ち望んでいる人たちがいたことだと思います。そのことが選手一人ひとりの意識に浸透し、勝利への命がけの執念と試合に臨む真剣さに繋がったんでしょう。ふと、先生の本にあった言葉を思い出しました。

     「物事に真実性を与えるものは知性ではなく意志なのだ」

     

     

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