ジンゴ!

安倍首相が国会答弁の中でつい「わが軍」、と本音をさらけ出したことが話題となっているようだ。ただ事の本質は、批判者が問題視する以上に深刻である。つまり自衛隊は軍隊ではない、ということ自体が大きな欺瞞の上に乗っかっているからだ。確かむかし自衛隊ではなく警察予備隊と言ったんでしたっけ。ネットで検索するとこう出ていた。

「警察予備隊(けいさつよびたい、英語表記: National Police Reserve)は、1950年(昭和25年)8月10日にGHQのポツダム政令の一つである「警察予備隊令」(昭和25年政令第260号)により設置された武装組織。1952年(昭和27年)10月15日に保安隊(現在の陸上自衛隊)に改組されて発展的解消をした。」

 つまり、要するに、簡単に言えば、ぶっちゃけた話、日本は敗戦後ずーっと、言い換え、つまりは言葉遊びの上に乗っかってここまで来たということでしょう。まぎれもない軍隊なのに自衛隊と言い換えているだけ。その意味では、あわてて自民党の誰かが弁解したように、安倍首相は別に間違っていたわけではない。しかしもともとが間違いの上に乗っかっての発言であることだけは、間違いない。つまり少しややこしくなるが、間違いを正しく間違えただけの話。だから三原じゅん子とかいう安倍軍の女子隊員が「八紘一宇」なんていう軍国ニッポンの古色蒼然たる標語を担ぎ出してもおかしくはない。おかしくはない? つまりもともとおかしいものを正しくなぞっただけ。
 それにしても安倍首相、今では死語に近くなっていた二つの言葉にまたぞろ命を吹き込むという、とんでもない人間に成り上がって(成り下がって?)きましたなあ。説明するのもシンドイ、カッタルイので『ブリタニカ国際百科事典』をそのままコピーしましょう。

「ショウービニズム(chauvinisme)=ある社会集団に生じる、他の社会集団に対する狂信的な自己中心的、敵対的心理状態をいう。軍事的名誉とわずかな恩給に満足してナポレオンにいちずに忠誠を捧げた兵士N. ショーバンの名に由来する。排他的愛国心、排外主義などと訳され、英語のジンゴイズム(jingoism)に近いが、ニュアンスは異なる。集団帰属意識とこれに基づく排外傾向は原始社会にもみられるが、それは社会集団間の物資や情報の流れの増大とともに薄れる。ところが、近代国民国家の成立は再びこのような傾向を愛国心として復活させた。この愛国心は、国民国家がナショナリズムを基調としながら、帝国主義、軍国主義の道をたどりはじめるとき、国内矛盾をおおい隠し、対外侵略を正当化する手段に使われる。」なるほど。

 もう一ついきましょか。「ジンゴイズム(jingoism)=露土戦争の際、対露強攻策を歌った英国の俗謡中の掛け声 jingo から、感情的、好戦的な愛国主義を指す。」 Bingo! ぴったりアベイズムに当てはまりますなー。
 安倍さんは決して悪い人じゃないんでしょう。だってお祖父ちゃんを深く尊敬してるらしいから。でもお祖父ちゃんがアメリカ議会で演説したからボクちゃんも、という発想はあまりにもお粗末。わが相馬では、囲炉裏端では、つまり家族内では、そったら「ジョーマゴ(上孫)」はいい子ちゃんだけんちょも、チヤホヤされて育つもんだから、ほれ、おおきくなっとロクなものにならねーど、という言外の意味が含まれている。国レヴェルで言うと、国の最高権力者としては危なっかしい、だけでなく危険な人となる。どうかジンゴ! いやもとへ(これって旧軍隊用語です、知ってました?)、ビンゴ!などとはならないように。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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