あゝ、うっつぁしー!

植えた覚えはないから自生したのだろうか、しばらく前から庭先に白百合が五、六本咲き乱れている。白百合などと言ったが、たくましい育ち方で、野生の百合だろう。昨年、いや一昨年からか、庭のすぐ目の届くところに三、四本ひっそりと咲いていたが、今年は庭の東側のものも含めると十本近くに増えている。
 そして不意に鉄砲百合という言葉を思い出した。そうだユリはユリでもこれは鉄砲百合だわい。辞書を見ると「ユリ科の多年草。高さ0.5~1メートル。葉は長楕円形。初夏、白色で香りのあるらっぱ状の花が横向きに咲く。尾久島、沖縄諸島に自生。観賞用に栽培もされ、切り花とする。ためともゆり。【季 夏】「人のごとく深夜に鉄砲百合は立つ/楸邨」
 今年は本数が増えただけでなく、丈が2.5メートルほどのものもある。こうなるとさすがに気になり、もしや放射能の影響で異常発育したのでは、とネットで調べて見ると、日本各地で同じ現象が見られるようでひとまず安心。
 安心、と行きたいところだが、今朝はこのユリの運命にも無関係ではない別の不愉快なことが勃発。
 今朝九時半に除染作業員が打ち合わせに来ることになってはいたが、いざ玄関先に出てみると、実際の作業はさらに一月先のことと判明して、またもや湯沸かし器が沸騰した。相手は全く罪のないおにいちゃんだったが、ドスの聞いた声と怒りに燃えたどんぐり眼でこう怒鳴っていた。

 「五月か六月から今日を入れてこれで確か五回目だぞ。いつまで調査・打ち合わせするんだ! あんたたち作業員は暑い中、防護服を着てまっことご苦労さんだけど、いつになったら作業する? あんたたちは日当払ってもらうんだろうからそれはいい、でも誰かが、大元締めが(T工務店か?)裏でがっぽり稼いでるんだろうな。来るたんびにドローンとかで撮ったボヤケた写真見せて、これで間違いないんでしょうね、ときた。ところが前回見せられた航空写真はこことは違うどこか他所の家の屋根とくらー。やってらんねーよまったく。
 といってあんたたちに言っても始まらねえ、帰ってお偉いさん方に言っときな、ちんたらちんたらいつまで調査してる、さっさと始めんかい、と。今の放射線値が、何だって0.24マイクロシーベルト? でも大騒ぎして除染しても結果0.22マイクロシーベルトなんだろ? だったらもっと放射線値の高いところを集中的に除染するとか、何よりもまだいたるところ山積みになってる廃棄物を何とかせいや!」

 おにいちゃん、そして遠くから見守ってる人の良さそうなおっちゃんまで神妙にこちらの文句を聞いてるので、張り合いがなくなって途中で止めた。でも腹の虫が収まらないので、机に戻って市の「生活圏除染事業・市民窓口センター」とかに電話できつく抗議。でもこっちの方もひたすら低姿勢なので、これまた張り合いがなくなって電話を切った。
 事故直後にここで既に提言していたように、立地町村で将来とも住めないところは仕方ない諦め、かつての住民には手厚く代替地を与え、事故現場を中心にたっぷり敷地を確保し、そこに最高水準の技術力を駆使して廃棄物の巨大な最終墓場を地下深く掘り下げて作る。そしてその上に絶対安全な原発禍記念博物館、さらに将来健康被害が出た場合の完備した病院と保養所、また万が一学童に健康被害が出た場合に、その子らのための学校・宿舎、そして時おり訪れる父兄のための豪華な宿泊所……要するに国は、従来のように原爆被災者とか薬害被害者の認定に手間取ったり出し渋ったりなど醜い対応は絶対せず、無条件で被災者救済に全責任を負うことを国は国是として確約すべきだ、と。そしてゆくゆくはそこを巨大テーマパークにし、ヒロシマの平和記念公園のように各国の要人が訪れたり、ひいては一大観光資源へと発展させる……
 だれかこの夢を現実化する政治家は出てこないだろうか…無理だろうな。(※2日の追記 オリンピック開催なんてより少ない予算で、しかも世界から例外なく称賛される国家的事業になるのに。もちろんその前にすべての原発の廃炉を決定して)
 そんな時、またもやバカな政治家がバカな発言をしたようだ。

「橋下徹大阪市長は31日、安全保障関連法案に反対する市民団体など約12万人が30日に国会周辺で開いた大規模集会に関し、自身のツイッターで「日本の有権者数は1億人。国会前のデモはそのうちの何パーセントなんだ?こんな人数のデモで国家の意思が決定されるなら、サザンのコンサートで意思決定する方がよほど民主主義だ」などと批判した。(「スポーツ報知」)」

 ザケンなっちゅーの!どうもこの政治家、登場した時から安倍とはまた別の意味で危険視してきた。ときに既成の政治家には無い斬新な提案をすることはあっても、それは金属疲労を起こした政治機構のスキマを突いただけで、確固たる信念と見通しの基に提起されたものではないのですぐ底が割れる。
 いやいやそんなことより、自分自身がサザンのコンサート並みの(サザンに失礼だよ)、もとい!コンサート以下のポピュリズム(大衆迎合主義)に乗っかって「行列の出来る法律相談所」から政界に躍り出たくせに、つまり大衆の興味本位の支持を受けて政治家になったくせに、よくもいけしゃあしゃあとデモ批判をやってくれたもんだ。サザンにもデモ参加者にも失礼極まりない暴言だ!
 ところで我が家の鉄砲百合だが、前述のように一ヵ月後には作業員の手で無残に処分されることになった。しかしこうなるとせっかく我が家に来てくれたユリさんたちには申し訳ない気もする。まっ、たくましいユリたちのこと、こぼれ落ちた種からまた来季、たくましく、しかも可憐に咲いてくれるだろう。
 言い忘れました、表題の「うっつぁしー!」は相馬弁でかなりきつい罵倒の言葉で、鬱陶しい、うるせえ、黙れ!を意味します。誰に向かって、ですって? そんなこと言わなくてもお分かりでしょ。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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あゝ、うっつぁしー! への1件のコメント

  1. 上出勝 のコメント:

    佐々木先生

    橋下の言うことなんかいちいち真に受けるのはばかばかしいとは思いますが、一言。

    大阪都構想で大阪市民の意思は反対で決着したはずです。民意は明確となりました。でもまた都構想を蒸し返していますね。民意無視ですね。
    それから、政治家引退と明言したはずなのに新党結成だそうです。
    府知事選挙も2万パーセント出ませんと言っていました。
    この人は自分自身「嘘」をついているという意識がないのかもしれません。

    自民党は小選挙区制のおかげでわずかの得票率で政権をとりましたが、原発再稼働や安保法制は反対が世論ないしは輿論の多数です。
    よく「安倍は少数派の意見にも耳を傾けるべきだ」と言う新聞の投書等をみかけますが、実は安倍は「多数派」の意見すら無視しているわけです。

    8月30日には安保法制推進派のデモも行われたようで、主催者(高須クリニックの院長)の発表では参加者は500人だそうです。橋下のリクツで行くと、安保法制推進は500人ですから、日本の人口比で言うと何パーセントでしょうか。

    話は変わりますが、12万人集まったと報道されていますが、私はもっと数が多かったのではないかと思っています。
    私は人数の目安にするのは後楽園球場なのですが、満杯で6万人。国会議事堂前の広場にすっぽり収まります。当日は、外務省横、憲政記念館前、日比谷公園ほかでも集会がありました。私は日比谷の方にも行きましたが、すごい数でした。
    また、入れ替わり立ち替わりして流動的ですので、最終的に参加した人は定時点での12万人をはるかに超えているのではないかと思います。35万人という人もいます。

    それにしても、橋下と言い、自民党の高村、谷垣と言い、公明党の山口と言い、みな弁護士です。本当に憲法勉強したのかなあ。よく司法試験通ったなぁ。
    恥ずかしいです。嫌になりますよ。

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