アイヌ語地名解について

地元の山の名前「バッカメキ」がどうもアイヌ語ではないか、と思い出してから気になって、先日ネットの古本屋から知里真志保の『アイヌ語入門――とくに地名研究者のために』(1956年初版、楡書房)を四千円で手に入れた。新書版で276ページほどの小冊子なので、少し高いなと思ったが、たぶん手に入りにくい本なのだろう、と思っていた。ところがネット友だちのMさんから、古本なら「スーパー源氏」で調べた方が安く買えるよ、と教えられ、急いで調べたらなるほど、同じ年に同じ書名で北海道新聞社から出たものが、二千五百円で買えるだけでなく、その復刻版がなんと八百円で売りに出されていたのだ。同じ年に二つの別々の出版社から出たというのがちょっと引っかかるが、結局楡書房の四千円という値段が、相場としては別に高いものではない、というのが分かった。ただし私のような者にとっては、復刻版で充分なのだ。
 というのは、その楡書房の本も、今は背革布表紙の豪華本に変容しているからだ。たぶん私のような人間は、いわゆるビブリオフィリア(愛書癖)やビブリオマニア(書籍偏愛)からすれば邪道を行っているのだろう。たいていの本はそれが初版本であろうが、限定本であろうが、箱はすべて捨てられ、帯(ふんどしとして好事家には貴重なものらしいが)は大事なデータが書かれていない場合はすべて剥ぎ取られ、カヴァーもうまく利用できなければこれまた屑篭行きだからだ。
 そんなわけで、安岡章太郎さんに頂いた著者限定本の『幕が下りてから』も、ウナムーノの『生の悲劇的感情』とオルテガの『ドン・キホーテをめぐる思索』の初版本も、自家製豪華本にはなったが古本屋では値打ちのないものに姿を変えてしまっている。
 ところでバッカメキである。いま『アイヌ語入門』を急いで読んでいるのだが、まだ本文中にその名はなく、巻末の簡略な語彙集にも出ていないのである。若し最後まで読んでもバッカメキの由来が分からなかったら、いよいよアイヌ語辞典を探さなければならないのかな、と思い始めている。
 著者の知里真志保氏については手許に藤本英夫『知里真志保の生涯』があり、アイヌ出身のアイヌ学者として金田一京助との関係や、武田泰淳との交流など調べたいことがあるが、まだ読んでいない。自由になる時間はたっぷりあるはずなのに、毎日なにかしら雑用に追われてるなー、これはまずいぞ。
(11/21)

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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