困ったときのバッパさん頼み

再開したはずなのに、モノディアロゴスの方、このところ湿り勝ち。取り分けての理由はないのだが、最近雑用が多いことや気になることが目白押しで、要するに集中力がなくなってきたからであろう。過去、そんな時バッパさんの悪口を書けば何となく調子を取り戻すことができたので、今回もその例に倣うことにする。
 昨夕バッパさん、通販から商品が届くから1万7千円くれろ、ととつぜん言う。6時から近くの斎場でI君のご母堂の通夜に出かけなければならず気が焦るが、仕方がない。急いで郵便局から貯金を下ろしてきて、お金を手渡しながら念のために聞いてみた。「何買ったの?」「散歩代わりの運動のためのもの」。どうも気になる。
 今朝方、昨夜届いたダンボールを開けて見て予想的中。アメリカ製の、あれ何て言うの?、ウォーキング・マシーン? こりゃ駄目だわ。間違いなく膝を壊してしまう。
 「どうしてこったらもの買ったの?医者に勧められたわけでもないんでしょ?」
 「テレビのコマーシャルでやってたの見て注文しただ。高齢者向けだって言ってたぞ」
 「高齢者ってたって、それせめて70歳代のことだべ。バッパさんはもう少しで93になんだど。身の程知らずもいいとこだべ。二年前熱中症のときも医者に言われたべ。これからは体を鍛えるなんてこと考えんなよーって」
 私自身がすでに持っているものより数段高級で、バネの強さもいろいろ調節できるらしいが、しかし近頃、車から降りる際に右足を車の外に出すために両手で持ち上げなければならないいバッパさんの膝にとって、このマシーンは命取りになろう。
 絶えざる体力維持をめざしてのこの涙ぐましい努力。深夜のテレビ・ショッピングとかで、マシーンに乗っかったアメリカ姉ちゃんの颯爽たる身のこなしをみて、そんじゃおいらもと思うその心根が偉い、いや怖い。
 実物を見て、さすがに諦めたようだ。「どうするこれ?いわきの姉さんにでもやっか?」いわきに住むバッパさんの娘は自然の散歩で充分だと言う。「それじゃ、石巻のおじちゃん(兄のこと)にでもやりな。電話したらいいべ」
 とここまで書いてみて、さて調子は戻ったか?なんだかかえって疲れたみたいだ。他力本願はやめて、明日から真面目に生活を整えよう。

アバター画像

佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
カテゴリー: モノディアロゴス パーマリンク