数日前、衛星第二で「モーターサイクル・ダイアリーズ」という映画が放映された。これはアルゼンチン生まれで、キューバ革命に参加し、カストロ政権の要職に就いたが、その後ボリビアの革命運動に身を投じ、政府軍に殺されたあのチェ・ゲバラの青春を描いた映画である。(チェ・ゲバラのチェは、アルゼンチンで「ねえ君」ほどの意味を持った俗語であって、本名はエルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ、1928-1967)。
映画作りの段階ではロード・ムービーの元祖『イージー・ライダー』(ピーター・フォンダ主演、1969年)の影響を受けたとは思うが、しかし内容そのものはチェ・ゲバラ自身の青春放浪日記(これは『モーターサイクル南米旅行記』、棚橋加奈江訳、現代企画社、1997という邦訳がある)を原作としている。
最近またチェ・ゲバラの名が時おり話題になってきたが、わが国でもかつて彼の名はカストロのそれと共に人々の口に上った時代があった。私自身の学生時代(1958-1962)も、スペイン語の先生の一人C神父(当時は神学生)がカストロの高校時代の同級生だということもあって、キューバ革命は同時代問題であるだけでなく身近なものに思われた。そして二回目の学生時代(1965-1967)を終え、それまで五年間属していたI修道会を出て原町に戻った年(1967)の秋は、ちょうどゲバラの死と重なっている。そのためもあってか、そろそろ寒い時節を迎える東北の田舎に帰って行く私に、ある後輩が私をゲバラになぞらえた添え書きのあるカードを持たせてくれた(どこかにまだ残っているかも知れない)。野(ボリビア)に下るゲバラという意味だったか。
実は今回の映画についての情報を得たのは、ハンドル・ネーム「ゆう」さん(むかし東京外語の大学院で私の教え子だった)のサイトである。お礼のメールを送るついでに、そんな青春の思い出を書いてやったら、彼からこんな返事がきた。
先生もチェになぞらえられたことがおありなのですね。わたくしは学部一年の時に外語の語劇でミュージカル『エビータ』に出演しまして、準主役の狂言回しのチェ・ゲバラを演じました。顔立ちも体型も全く似てないのですが、「高校時代に合唱部だったから歌が歌える」という、ただそれだけの理由で拔擢されました。H先生にはいまでも「チェ!」と呼ばれます。
いやいや、彼より顔立ちも体型ももっとゲバラらしくないこの年老いた偽チェ・ゲバラは、ゲバラのように潔くもないし格好よくもないが、今日も、そして死ぬまでチェ・ゲバラのつもりで生きていきますぞ。