定価1円の怪

先日、わが不肖の書『モノディアロゴス』(行路社版)がアマゾンで1円で売り出されていることに触れた。そして試しに一冊注文したことをご報告したと思う。まだ1円のものが6冊ほど残っていたが、それは見っけた人の得と、そのままにしておく、と書いた。しかし流通機構の魔術にかかったとはいえ、自著が1円に値踏みされたことはなんとしても悔しい。実はそのあと、他人の書のいくつかも1円本の蟻地獄から救い出した(なーんちゃって、得をしたわいとほくそ笑みながらではあるが)のである。そしてとうとう我慢がならなくなって1円のもの6冊全部、そして、えーっいついでだ、とばかり99円のものも追加注文した。
 それらがこのところ毎日届いている。それらを見ながら不思議に思うのは、それらがいわゆる「古本」にはどうしても見えないことである。つまり一度人の手に渡って、それから古書店に売られたものとは見えない、ということ。帯まで含めて「まっさら」なのだ。版元の行路社が倒産などして、それで新本のまま古書店に流れた、というのならまだ分かるが、行路社は倒産などしていないのである。
 地獄からの救出作戦のあと、現在アマゾンの密林に残されたのは最低価格200円から最高1,200円までの8冊であるが、ひそかに手を回すことはもうするつもりはない。屈辱的な1円地獄から子供たちを救出したことで、いまは満足である。まさかこのあとも、またもや1円に値踏みされることはあるまい。そうであることを心から願う。
 「高尚」な話題をお約束しながら、今回も実に低次元の話題に終始した。ペソアについて書かなければならないことがあるのだが、それはこの次ということにしよう。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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