或る私信

K. Uさま
 向日葵の素敵な写真ありがとう。一気に亜熱帯の暖かさが伝わってきました。さっそくそのうちの一枚をはがき大にプリントアウトして居間に飾ってもらいました。
 名護市の市長選、固唾を呑んで見守っていました。宜野湾市の普天間基地の中に住んでいると言ってもいいKさんたちにとって、他の誰よりも複雑な心境だったろう、でも沖縄のために現市長の再選を喜んでいるはず、だと。Kさんとお友だちになって以来、これまで以上に沖縄の苦しみが分かるようになってきました。沖縄に基地を押し付けてのほほんとしている本土の人に、私もその一人なのに、恥ずかしさだけでなく怒りさえ感じています。
 本当に長いあいだ、ひどいことをしてきました。反対運動が流血騒ぎにならないように祈ってますが、しかし負けて欲しくない、頑張って欲しい、と思います。本当なら、本土の人がたくさん応援に駆けつけて、十重二十重に人間の鎖で工事を阻止すべきだと思います。思うだけでそれができない自分を情けなく思います。都知事選でも細川さんと宇都宮さんが一本化すれば、枡添に勝てるのに、そうすれば安部政権の屋台骨を揺るがせ、沖縄の基地の県外移設どころか、基地そのものの廃絶への歩みを進めることができるのに、と思ってますが、投票までもう一うねり生じない限り枡添が勝つのでは、と心配しています。
 どちらにしても長丁場の闘いです。息を切らさないで執拗に頑張っていくしかありせんね。
 話は変わりますが、最近、拙著の韓国版を読んだソウル大学「統一平和研究所」の金教授から、そこの機関誌に寄稿してもらえないか、さらには渡航費・滞在費を出すから五月中旬の会議にも出席してもらえないか、との依頼がありました。私からの返事は、喜んで寄稿はするが、会議出席は家内の介護があり無理であること、しかしその代わり私の寄稿文の翻訳は、拙著の翻訳をしてくださったテジョン市韓南大学のヒョン・ジニ女史にやっていただきたい、そして可能なら私の代理として女史の会議出席はどうだろう、とお願いしたところ、女史からも金教授からも快諾を得て急展開、願っても無い結論が出たところです。女史は韓国や日本の脱原発のためなら何でもお手伝いしますと寛大に申し出てくださり、感動しました。
 昨日、Xさんからも今度の大震災三周年を記念して、アンヘラさんという友人(拙著を介して知り合った)と一緒にマドリードでなにか催しをしたいと言ってきました。反原発の動きがこうして国境を越えて着実に進んでいくことを喜んでいます。
 そのXさんがこの間の一時帰国の際、Iさんと一緒に拙宅に来てくださったときの写真添付しましょう。
 こちら、美子をはじめみな元気にしています。Kさんがまた南相馬にいらっしゃることを心から願ってます。前便に書いたかどうか忘れましたが、EBSの動画をスペインの友人たちに紹介するとき、「画面の中の私は引退後無駄に太った元ボクサー(boxeador retirado, inutilmente engordado) みたいです」と書きましたら、とても受けました。
それではまた。

 老境の元ボクサーより

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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或る私信 への1件のコメント

  1. 阿部修義 のコメント:

     名護市の市長選は、現職の稲嶺氏が圧勝し再選されたことは先生と同じように私も本当に良かったと思っています。南相馬市の市長選も桜井氏が再選され、自民党が支援している候補者が落選していることの意味に、政策を越えた人間の良心を私は感じています。問題は都知事選ですが、先生が指摘されているように世論調査などで現段階では、自民党から支援を受けている桝添氏が優勢のようです。後二週間ありますし、無党派層の票が全体の四割だそうですから誰が都知事になるかは現段階ではわかりません。報道などでは、争点は社会福祉、経済、雇用、原発などとありますが、私は人間の良心が究極の争点だと今回の都知事選を考えています。東京は電力供給の恩恵を福島県の人たちにリスクを背負わせて今まで享受してきました。今回の原発事故による実質的な健康被害もありません。都民中心で自分たちの都合の良いことばかり考えて、人間として、人として歩むべき道として、都民の一人である私は非常に恥ずかしく思っています。今回の都知事選は細川氏を私は支持しています。細川氏の一言が私の心に響きました。

     「原発は国の存亡に関わる問題だ」

     こういう高い識見を有する人物が今の日本には必要です。そして、細川氏には人間としての良心を私は感じます。

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