半覚半睡

数日前から、右後頭部がときどき痛む。それも思わぬ時の一瞬の痛みなのだ。気にはなるが、たとえば頭の中からの痛みではない。だから偏頭痛のような、脳みその痛み(脳みそが痛むのではないかな)ではない。それなら何の痛みか。どちらかと言えば、頭の内部でも頭蓋骨でもなく、あえて言うなら表皮部分なのだ。でもどこかにぶつけた記憶もない。指でなぞってみても、はっきりここが痛いと特定できるわけでもない。それなのに、たとえばカーテンを閉めようとして、柔らかい布地がふわっと頭をかすめただけなのに、思わず「痛いっ!」と言ってしまうほどの痛さを感じる時もあるのだ。
 さて今日の昼寝のとき、やっとその痛さの理由が判明した。半覚半睡の、つまり夢の入り口付近での寝返りの瞬間、後頭部をベッドの頭部の硬い飾り板(?)にぶつけた。そうだ、ちょうどこの高さで後頭部がその板に当たる。そう言えば数日前、明け方の夢の中で何かが後頭部に「痛さを与えた」ような記憶がぼんやり蘇ってきた。あゝあの時、寝返りを打った瞬間、右後頭部をぶつけたのだ。
 そう分かってから、いつの間にか痛さを感じなくなった。今回の痛さは単純な打撲だったが、でもこれからは理由の分からぬ痛さなどますます増えていくのは間違いない。たとえば指を曲げるときに感じる突然の痛み。仕方ないよなー、油が切れかかってるんだから。
 リューマチ、痛風……そう言えば敬愛するルイス・ビーベスも若いのに痛風に苦しんでいたらしい。ところでリューマチと痛風、どう違う?同じもの?いやいや調べる気もないけど。
 ところで先ほど「半覚半睡」などと書いてしまったが、辞書を調べてもそんな言葉はない。でも今まで何回も使った言葉だぞ。おかしいな。なかなかいい言葉なんだけどな。流行らせようか。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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