ばっぱさんのニュー・アイドル

午前中パソコンの修理を頼んでいるXから電話がある。ウィルスが四匹ほど見つかったそうだ。ウィルス・バスターが効かなかったのですか、と聞くと、故障の原因を作ったあのウィルス・バスターのインストール作業の中断のあと、無防備になったすきに入り込んだのではないか、とのこと。なんとずる賢いウィルスだこと。
 パソコンでは先輩格の「ゆう」さんは、故障に備えてデスク・トップ2台と、ノート・パソコンより小さなネット・ブックを1台持っているそうだ。「ゆう」さんの話で、いま私が使ってえいるAcerがネット・ブックという種類に入るパソコンであることを初めて知った。「ゆう」さんの言うとおり、「便利なのか不便なのかわからない世の中」である。Xからはこの際サーバーを付けたらどうか、と勧められている。一応見積もりを見てから検討することにしているが、それがどう良いのか、説明を聞いたがよく分からないのである。
 自分から設定した昨日までの締切は、一昨日、編集のKさんにメールして、パソコン故障のため少し遅れる旨伝えた。そんなわけで、べつだんあせる必要はないのだが、それでもなんとなく落ちつかない。まるで肉親の誰かが入院しているような気がしてなんとなく変な気分なのだ。これからさらに歳を重ねるなかで、果たしてどこまで機械を扱うことができるのか。今でさえ、すでに危うくなってきているのに。
 今日は午前中、頴美と愛がばっぱさんを訪ねてくれた。帰りがけ、ばっぱさんが愛にどうしても何か上げたいと言うので、スタッフのYさんが駄菓子を一袋、急遽ばっぱさんの手に渡してくれたらしい。考えてみれば、ばっぱさんにはこれまでいつもアイドルがいた。最初は姉の次女、つまりばっぱさんにしてみれば孫娘のMを熱愛(といったらちと大げさだが)、次は姉の長女の娘、つまりばっぱさんにしてみれば曾孫のNを特に可愛がった。しかしとうぜんのこと、Mは結婚して横浜に、Nは今春大学を卒業して今は新人研修とかなんとか、忙しくて会いに来ることもなくなった。
 いずれにせよ、ばっぱさんの最後のアイドル愛は、ありがたいことにばっぱさん訪問を嫌がることもなく楽しそうに行ってくれている。毎日、そしては時にはドライブ、そして月に一度は散髪までしてやる息子の訪問より、アイドルの訪問が待ち遠しくてならないらしい。そうだよね、息子といっても七十一にもなった爺さん(などと自分では決して思ってもいないが)より、可愛い愛ちゃんの訪問が千倍も万倍も嬉しいのは分かるよ。本能的に、自分の後により長く生きてくれる者の中に「希望」を見ているのだろうな。

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佐々木 孝 について

佐々木 孝(ささき たかし、1939年8月31日 – 2018年12月20日)は、日本のスペイン思想研究者。北海道帯広市生まれ。2歳から引き揚げまでの5年間を旧満州で暮らす。1961年上智大学外国語学部イスパニア語学科在学中にイエズス会に入会。5年半の修道生活の後、1967年同会を退会、還俗する。同年上智大学文学部哲学科卒業。1971年清泉女子大学講師、助教授を経て、1982年教授となる。1984年常葉学園大学(現・常葉大学)でスペイン語学科の草創に参加。1989年東京純心女子短期大学・東京純心女子大学(現・東京純心大学)教授。その間、講師として専門のスペイン思想、スペイン語を東京外国語大学、駒澤大学、法政大学、早稲田大学などの大学でも教える。2002年、定年を前に退職、病身の妻を伴い福島県原町市(現・南相馬市)に転居。以後16年にわたり、富士貞房(ふじ・ていぼう、fuji-teivo、――スペイン語のfugitivo「逃亡者」にちなむ)の筆名で、専門のスペイン思想研究を通じて確立した人文主義者としての視点から思索をつづったブログ「モノディアロゴス(Monodialogos: ウナムーノの造語で「独対話」の意)」を死の4日前まで書き続けた。担当科目はスペイン思想、人間学、比較文化論、スペイン語など。作家の島尾敏雄は従叔父にあたる。 2018年12月20日、宮城県立がんセンターで死去(享年79)。
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