朝方、郵便受けを見ると、少し膨らんだ封筒が入っていた。送り主は書肆マコンド店主の I・Y 氏である。開けてみると小さな緑色の箱で、さらに開けてみると、白い石に呑空という二字が彫られた篆刻が入っていた。まあなんと素敵な贈り物だこと! 氏が篆刻を趣味にされていることはどこかで読んだか、氏ご自身に教えてもらったかして、ぼんやりとは知っていたが、まさか私も作ってもらえるとは夢にも思わなかった。
自作の印をまとめる『遊字譜』の「呑空」の項の冒頭にはこう書かれているそうだ。「佐々木孝。またの名を富士貞房。呑空を号とし、同名の庵を南相馬に結ぶ」。よくご存知で恐縮至極にございます。
そんなことはどうでもいいことと思われる人も多いと思うが、世間は明日明後日と土日が続いて、今年の黄金週間は例年より少し長めらしいので、今日は少し脱線してみよう。このブログで使っているハンドル・ネームというかペン・ネームの富士貞房の由来は…いやその前に「呑空」の説明をしよう。
この雅号は、むかし作家・真鍋呉夫氏の指導のもとで連句の会に参加したとき、あわてて作った名前である。種を明かせば、ドン・キホーテの頭文字 Don Q. のフランス語読みをもじったもの。しかし以後連句にも俳句そのものにもとんとご無沙汰が続いており、それこそ有名無実。しかし店主のご指摘のように、わが家の古い棟、つまり現在私たち夫婦が住んでいる棟の、ふだんは使われていない玄関にかかっている手作りの表札にその名を読むことができる(といってだれも読む人はいないが)。また私が作る私家本の発行元の名前でもある。
以前ネットで「呑空庵」を検索したところ、宇都宮市に痔専門の医療法人が同名の社団あること、また富山県の射水市に居酒屋「呑空」があることを知って意を強くしたものである。つまりどちらも生きていくには大事な施設だからだ。
ところで富士貞房である。これもどこかで種明かしをしているが、要するに二葉亭四迷が「くたばってしめえ」の音合わせであるのと同じことで、「逃亡者」を表すスペイン語の fugitivo、つまりフヒティーボからの語呂合わせである。何からの逃亡か。いろんなものからの逃亡である。
少し理屈をつければ、生きるということは、見方によっては真実の問いと答えから必死に逃げているようなもの。つまり格好良く言えば真実の追究なんて言えば言えるかも知れないが、多くの場合、真実から必死に眼を背け続けることでもあるからだ。真実追求という意味では、ウナムーノというスペインの哲人が言うように「生の悲劇的感情」が生まれ、真実から逃げまくるという意味では、その同じウナムーノが言うように「生の喜劇的感情」が生まれる。パスカルさんがおっしゃっている「気晴らし」がこれと同じことを言っているのかも知れない。
なーんて今日はがらりと話題を変えてしまったが、でも皆さんはどうか知りませんが、私にとって残された日々、戦争やら原発問題やら、あゝそうだ地球温暖化問題やら、その他もろもろの問題を考えながら生きていかなくちゃならないわけで、そのための手がかりをなんとか見つけたいわけであります。それは皆さんとて同じだと思いますよ。
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※本文中の太字、朱書き、アンダーライン、マーカー等の処理はすべて、死後、息子によって為されたものです。
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呑空 さま
知りませんでした。
文字に意味がある、と思ってました。
ドン・キホーテの仏語音から、でしたか。
洋菓子・パン屋さんに、「神戸ドンク」、ありますね、
同じなのですね・・
「ノンク」でなく、「ドンク」としたのは、
語呂にパン屋さんらしさがあったせいでしょうか?
たしかに「ノンク」では、一杯やりたくなりそうです。
円空と言う不思議な人物がいます。
とても興味があります。
スペインの魂「ドン・キホーテ」と「円空」、
全然脈絡が無いように見えます。
でも、何かドキドキ、わくわく、妄想をかきたてます。
塵 拝